10月は秋の気配

【スマホ小説】ボス 8

1995年1月16日、成人式の振替え休日の夜。ボスの携帯が鳴った。「あ、オンマからだ!オギ、とってみな」と携帯を娘のオギに渡した。

「もしもし、オンマ?」としっかりした口調で応対する幼い娘を暖かい眼差しでボスは見つめていた。「アッパと変わるね」と言うとオギは携帯をボスに渡した。「もしもし、どうした?」…向こうからソヒャンの声が聞こえる。

「もしもしアッパ?ゴメンね。今日帰る予定だったんだけど、親戚に捕まっちゃってさぁ。今晩泊まって明日帰れって…」困惑気味に話すソヒャンにボスは優しく「良いよ。久し振りに会ったんだからゆっくりしておいでよ。こっちは大丈夫だから」と言うと横で聞いていたオギが「大丈夫だから…」とボスを真似て言った。「ハハハ、オギも大丈夫そうだから、明日帰るわね。ゴメンね」と言うと電話は切れた。

次の日の早朝、妙な胸騒ぎでいつもより早く目覚めたボスはテレビのスイッチを入れた。「な…何だこれ…」画面には信じられない光景が映し出された。

倒壊して傾いたビル、炎が上がり噴煙の様な濃い煙に覆われた街並み、グニャグニャに曲がった線路と脱線して横たわる電車、崩れて倒れた高速道路、割れた道路で横転する車…まるでパニック映画の一コマの様だった。胸騒ぎが高まる。

(ここは何処だ?まさか…)画面右上に「神戸市内」と言う文字が目に飛び込んで来た。(神戸?ソヒャンは…そうだ、携帯…)この当時はまだ珍しかった携帯だがボスは購入してソヒャンにも渡してあった。

「…ただいま回線が大変混雑して…」アナウンスが虚しくなるだけだった。

「ソヒャン!…行くから、すぐに…」とつぶやくと隣で眠る娘に目をやった。そして実家に電話をしてすぐに出掛ける支度をした。実家でもニュースを見たらしく事情を知りオギを引き受けてくれた。

しばらくするとチャイムが鳴りアボジ、オモニが駆けつけた。「早く行きなさい。必ず連絡するのよ」とオモニが言った。「悪いな。じゃあ、頼むよ」と挨拶もそこそこに家を飛び出した。そして辛うじて取れた新幹線に乗って一路神戸へ向かった。


「えーそれで奥さんはどうなったの?」と路子が聞くとスジンはタバコに火を点けて「フー」と煙を吐き出した。そして「…ダメだった」とポツリと言った。「えっ!亡くなったの?」と路子は驚きと悲しみの混ざった表情でスジンを見た。

「向こうで警察の検死が行われて荼毘に付された後、遺骨を持ってボスは一人で帰ってきたんだ…」スジンは悲しみに溢れた表情でしばらく口をつぐんだ。

東京に戻ったボスは、まず遺骨を持ってソヒャンの実家に行って報告をした。「こ…こんなにちっちゃくなっちゃいました。申し訳…ございません」とボスは唇を噛み締めながらその場にひざまづいた。

「イヤ、崔ソバンが悪いんじゃないから…」と言いながらもソヒャンのアボジ、オモニは遺骨を撫でながら涙を流すのであった。

           続く

3 COMMENTS

もう~~

あああ~ そんな展開????💦💦💦 悲しすぎじゃん~😞
現実の震災の時も、いてもたってもいられず、何時間もかけて神戸に入っていった仲間を大勢知っています~😢 もう、それは、それは大変でしたよね~長田区🤢
ボスの気持ちを察して余りある~😢 辛いね~
んで? んで? ハッピーに展開すんでしょうね~😢

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