卒業の春…再会の準備を始めよう

鉄人28号と単三電池(中)

正義の味方〈鉄人28号〉の電池が切れた数日後の夕方、ミヌはオモニと隣町まで買い物に行くことになった。ミヌの家は駅近ではあるが東京郊外の閑散とした田舎街だ。

駅前にタバコ屋が1軒と徒歩数分のところに小さな八百屋があるだけの寂しい街。なので肉や電気製品のたぐいを買う時は小さな百貨店のある隣町までひと駅、電車に揺られて買物に行く。週に2回ほど。この日もいつものようにオモニに連れられて百貨店へと向かった。

オモニの歩調はいつもゆっくりだ。幼いミヌの歩幅に合わせてくれる。隣町の駅に着いて改札を抜ける。いつもは小さな声で語りかけるオモニだが、「ミヌ、今日は家に必要なものしか買わないからね。お菓子も買わないよ。」とこの日の声は少し大きかった。

そして、少し間をおいて「28号の電池も今日は買えないよ。お金がそんなに無いからね」。あとの言葉はつぶやく様な声色で顔は前を向いていた。ミヌはオモニの顔を見あげながらガッカリした表情でうなずいた。オモニの強い言葉と意思のようなものを察してか声は出なかった。

百貨店の中は平日の午後ということもあってか、各階は寂しいほど閑散としていた。家の電球が切れたので付け替えの電球を買うのが主な買物だった。オモニは一目散に電気製品を取り扱う3階へと向かった。ミヌもそれについて行く。

電気製品がところ狭しと並ぶ商品棚を移動しながら、オモニはカゴに手を入れて家から持ってきた切れた電球を取り出して同じものを探す。「ミヌ、遠くへ行かないでね。」と言いながら視線を商品棚に移した。ミヌは少しオモニから離れてフロアーをひとりでブラブラしていた。

ずいぶんと離れてしまったオモニを目で確認しながら歩き回った。オモニは同じ電球を探すのに集中している。その時、商品棚に並ぶ「単三電池」がミヌの目に入った。のどから手が出るほど欲しい単三電池。そーっと手を伸ばし電池を手に取った。しばらくそれを眺めながら(・・・これがあれば〈28号〉は、また大きな雄たけびとチカチカと鋭い眼を輝かせるのだ。)そう思ったらもうミヌの小さな欲望は風船のように膨らむばかり。

「欲しい、欲しい。目の前にあるこの単三電池がどうしても欲しい!!」。周りを見る余裕など、もうどこにもない。手に持った単三電池はミヌの小さな右ポケットにスルリと吸い込まれるように入っていった。

(続く)