1本の樹にもー新米教師奮闘記㊱

和歌山に戻ったヒョングは先ずミョンジャの父親に電話を入れ、その後直ぐに採点を行った。予想通りテストは素晴らしい成績であった。階段を上がり教室に入ると学生たちが一斉にヒョングの顔を見て心配そうに話しかけてきた。「ソンセンニム、アボジの様子はどうですか?」「テストの結果はよかったでしょう?」遠目でソンスとミョンジャが笑っている。

「そんなことより、お前たち、試験が終わったからって安心するなよ。いいか、明日まで年間総括文を提出するように」「えーーー!」学生たちが一斉に抗議する。「そりゃ、ないっすよー」「明日までって、ひどすぎませんか?」「試験よりつらいな」…「今年1年を振り返って自分の良かった点、足りない点、クラスのいい点、悪い点を自分なりに評価すればいいんだ。その客観的な見方がお前たちの今後につながるんだぞ。分かるな?」「…」抵抗しながらも素直に受け入れる学生たち。ヒョングは、本当にかわいい子供たちだと心の中で感心していた。

終業式。ヒョングのクラスのほとんどの学生が優等生、最優等生。そして皆勤賞だった。式が終わると通学生たちはそそくさと家に帰り、寮生たちも両親の車で学校を後にした。実家が店を営むミョンジャや数名の寮生たちは親の出迎えがないので駅までヒョングが見送った。みんな、笑顔で家に帰っていった。

終業式の後、恒例の食事会が食堂で催された。そこには教育会会長や学父母も参加してにぎやかな宴となった。宴もたけなわの頃、教務主任が突然ヒョングにポツリと言った。「ヒョング先生、もし東京に帰りたいんやったら帰ってもええで」「え?」ヒョングの家庭を気遣っての言葉だと知らないヒョングには衝撃としか言いようのない一言だった。ヒョングは体から酔いが一気に覚めていくのを感じた。