春のうららかさを感じよう

おかしな娘のオモロイ話(15)ーワケアリ夫婦?

私たち夫婦はところどころで「ワケアリ夫婦」だと思われている。それが誠に遺憾である。

夫は大学職員とラグビー部のコーチを兼任している。自身も大学までラグビーをやっていた。だけど、身長が 低く体格もずっしりと大きいわけでもない。いわゆる細マッチョである。そして、なぜか未だにヒゲもあまり生えない。部活の練習があるので、基本的に毎日ジャージを着ている。しかもそのジャージが「〇〇University Rugby Team」のネーム入り。出会う人たちには9割方大学生だと思われているだろう。

長男を出産した時のこと。産院では産後の母と赤ちゃんと過ごせるようにと家族の宿泊が可能だった。第1子だったことも あり、夫が仕事終わりに産院に泊まりにきた。仕事終わりだが、何しろこの日も練習帰りなので上も下もジャージ。そして練習着などが入ったエナメルのカバン。

助産師さんは夫を温かく迎えてくれて、私が入院している個室に案内してくれた。
助産師:お母さん、頑張ったよ。赤ちゃん、とってもかわいいよ
夫:あ…はい…
助産師は、なぜか夫に向かって私を<お母さん>と呼んだ。

翌朝、夫は産院から出勤した。もちろんジャージ姿である。「行ってらっしゃい~ 」夫を見送ってから入院生活を送る。生活をサポートしてくれる助産師さんが部屋に入ってきた。
助産師:お兄ちゃん、赤ちゃんをかわいがってくれた?
私:?

お兄ちゃん? 私はそこで初めて助産師が夫と認識していないことに気がついた。
私:あれ、夫なんですよ(笑)
助産師:えぇー?!
夫が若くみられるのは毎度のことだ。なので、さほど気にもならない。

家にいてもつまらないからと、夫は翌日も泊まりに来た、2日連続。さすがに助産師さんたちがザワつき始めた。こんな私でもザワつく理由がなんとなく分かる。 朝8時半に病院を出て17時半に帰ってくるジャージ姿の夫。そして連泊…「ねえ、あなた仕事は?」って聞きたいんだろうな。でもあまり気にせず、生後2日目のちゃん丸と夫とこの日も仲良く3人で過ごす。

さらに翌日。夫からメールが来た。
“ラグビー部の学生たちが赤ちゃん見にいきたいって言ってるんだけど”
“いいよー♪”
二つ返事で返した。

1時間後。夫と学生たちが到着。夫はジャージだが、学生たちに至っては、練習着のピチピチの短パンにTシャツ、ストッキングといういで立ち。どこからどう見ても場違い。しかも、そんな格好のごっつい学生たちがゾロゾロ。面会の受付を済ませた後、私の病室に来るまでにすれ違った助産師や入院中の人は全員二度見。それほど浮いていた。その中で、誰よりも身体が小さい夫。

学生1:ヤバい!ホンマかわいい!
学生2:次、俺に抱っこさせて!
みんなそれぞれ、ちゃん丸をかわいがってくれて帰っていった。夫も見送りに行きがてら今日は家に帰るようだ。
私:気を付けてね~!

怒濤のような面会時間を終えてホッと一息。そこへ助産師さんが様子を見にきた。でも、なんかいつもと違う。
助産師:すごくたくさん会いに来てくれたわね。にぎやかだったわぁ~。…あの、ひとつ聞いてもいい?
私:はい。何ですか?
助産師:その~、だんな様は…その~、、、大学生さん?
助産師があまりに気を使いながら聞くので私は大笑いしてしまった。私の笑い声でちゃん丸が 起きちゃう。

なるほど、そうか。私は夫が<若く見られる>ことだけを気にしていたが<父親が大学生>だと思われることまでは考えなかった。確かに、私は入院手続きの過程で自分の職場や年齢は病院側に伝えているけど、夫に関する情報は何も伝わっていない。「この夫婦、どうやって養っていくんだよ、、、」ってきっと誰もが思っていたんだろうな。

私:そっか、そうですよね。そう見えますよね。夫は大学でラグビーのコーチをしてるんです。大学職員の仕事とかけもちしながら。れっきとした26歳です(笑)
助産師:そうだったのね!ごめんなさい。いえね、あんまりにも若いからさ、ちょっと産後の 生活が気になっちゃって、、、私たちの勘違いだったのね。
私:勘違いして当然です。毎度パチンコ店で年齢確認されてますから。

こんな経験はこの産院だけかと思ったが、退院後も度々勘違いされる場面に出くわす。どうやら夫は見かけが相当若いらしい。「逆に、どうして私は大学生に見られないのかな?」そう思うと、羨ましさを通り越して夫が妬ましくさえ思えてくる。