3年12班の愉快な面々　41

年が明けて3学期が始まった。高三の3学期はそれこそ進路問題が前面に出て、全ての3年生がこの問題に取り組む。我が12班のメンバーも例外なくこの問題に直面する。

大事な試験を控えたス◯は練習に余念がない。9月にあった11全大会の公演で、金剛山歌劇団のスカウトの目に止まったス◯に、面接と試験の知らせがあったのは去年の暮れだった。

試験日は1/25 東京朝高の舞踊部室で。「基本動作と独舞の実技と面接」と言う課題を受けたス◯は、長年の夢を叶える第一歩を踏み出す実感を感じながら、その準備にひときわ力が入った。

いよいよ当日を迎えたス◯は試験場である舞踊部室で試験官を待っていた。程なく女性の試験官が先生と一緒に入って来た。「さぁ、それでは始めましょうか？緊張しないで普段の力を出してね。それでは先ず第5動作굿거리장단から」と課題を言われた。

テープを通してチャンゴの音が鳴り、その音に合わせて体を動かす。舞踊の基本の動きを通して踊り手の基礎技術を確認する。

ス◯は全身の隅々まで細心の注意を払ってしっかりと体を動かした。続いて「第11動作잦은모리장단 」「第8動作안땅장단」と幾つかの基本動作を行った。

試験官の厳しい視線がス◯の動作に注がれる。採点表に書き込まれる内容が気になる。ス◯は雑念を捨てて踊りに集中した。

「はい、結構です。では次は独舞ね。演目は…『북춤』ね…それじゃ準備が出来たら始めて」と試験官が言った。북춤…言葉の通り북（太鼓）の踊りである。丸い太鼓を肩から掛けて踊る代表的な踊りである。準備を整えたス◯は大きく深呼吸をして音楽が鳴るのを待つ。音楽が鳴り始めた。

最初は굿거리장단のゆっくりしたテンポから始まる。優雅な踊りの中でも時折叩く太鼓の音「ドン！」と言う音と角を叩く「カッ！」と言う音が緊張を醸し出す。しかし휘모리장단に乗った速いテンポに変わると雰囲気がガラリと変わる。ス◯の表情も攻撃的になり動きも鋭くなる。

ひとつ一つの動作にキレが出て、響く太鼓の音も心なしか攻撃的だ。「ドン！カッ！ドン！カッ！」と連続的に太鼓が鳴り最後は回転だ。回転がブレずに速い。

試験官は目を見張った。「先生、この娘良いですね」と言った。先生はちょっと驚いた。試験官が試験の途中で感想を言う事はあまり無いからだ。「自慢の部員ですから」と先生は胸を張った。

踊りが終わった。静けさの中で「はぁはぁ」と言うス◯の荒い息が響く。試験官が「お疲れ様。良かったわよ。それでは5分後に面接を行います。」と言って一旦出て行った。

ス◯は緊張から解放されたのかその場にしゃがみ込んだ。部長始め部員達がなだれ込んできた。「ス◯、どうだった？」「上手く踊れた？」「緊張したでしょ？感触はどう？」と心配して声をかける。ス◯はニコリと笑った。

机が置かれた部室で試験官は面接を始めた。舞踊を始めたきっかけは？今までで一番記憶に残る演技は？舞踊をする上で大切だと思う事は？etc…ス◯は全てによどみなく答えて行った。

試験官は「それでは最後に…あ、これは試験とは直接関係ないんだけど…恋愛経験はあるの？もしくは現在進行形の？」とス◯の顔を見た。ス◯は初めて答えに詰まった。そして…「まだ、どうなるかわかりません…」と下を向いた。しばし沈黙が流れた。

「ホホホ、正直な子ね。と言う事は好きな子はいるのね？感情表現をする上で恋愛は大切よ。頑張りなさい！」と言って先生に目配せをして「今日はお疲れ様。結果は後日先生に知らせます」と言い残して試験官は部屋を出て行った。

入口まで見送ったス◯は緊張が解けて一気に全身から力が抜けた。（終わった。やるだけやったし後は結果だけ…）心地よい気だるさに包まれる中「良かったわよ。試験官の印象も良かったみたいだし、期待して待ちましょう」先生の言葉が心地良く耳に響いた。

教室に戻るとNM、Eスを始めとする女子やHソン、Gチ達男子も心配そうに声を掛けて来た。「どう？上手く踊れた？受かりそう？」口々に感想を聞いてくる。「ス◯の事だもの、大丈夫に決まってるじゃない。ね？」とMリが話すとス◯は「やるだけやったから後は結果を待つだけ。応援してくれて、ありがとう」と頭を下げた。辺りを見回したがSスの顔が見えない。（最後の追い込みね。Sス、頑張ってね！）ス◯は心の中でエールを送った。