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1本の樹にもー新米教師奮闘記⑰

東京に滞在している1週間、ヒョングは殆んど家にいなかった。今日は新宿、明日は上野と同級生や先輩後輩たちがひっきりなしにヒョングを飲みに誘う。オモニが寂しそうに「たまには家で夕食を食べれば?」とポツリと言った。オモニの気持ちは痛いほどよく分かる。数か月ぶりに帰ってきたと思ったら毎日飲み歩いては帰宅が午前様の息子を心配しない親などいないだろう。

オモニも長男とゆっくり話がしたいのだ。いや、じっくりと顔を見ているだけでいいのだろう。分かってる、それは分かっているのだが、人のいいヒョングは誘われると断れない。(オモニ、ごめん)ヒョングは毎日昼間に目を覚ましては心の中でオモニに謝った。

ヒョングにはもう1つ心に引っかかるものがあった。ミョンスンとの再会である。帰京して1週間がたつというのに、まだ会えていないのである。ミョンスンの家に何度電話をかけてもつながらない。5日目でようやく電話がつながったがミョンスンは留守だった。ミョンスンは会社の慰安旅行で3日後に帰ってくるらしい。

ヒョングは東京にいる期間を前もってミョンスンに伝えていた。それなのに会うのはおろか声さえも聞けないなんて… ヒョングは言いようのない寂しさを覚えた。会えないと、なおさら会いたくなるのが人の感情である。心待ちにしていたミョンスンとの再会が果たされないと知り、ヒョングの胸は恋しさと切なさで張り裂けんばかりだった。

(今回会えなかったら次は正月にしか戻れないんだぞ。何か月も先なのに…ミョンスンに会いたい…)ミョンスンの気持ちに変化が起きていることを、この時のヒョングはまだ知る由もなかった。