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1本の樹にもー新米教師奮闘記②

走る車窓から見える景色は、街の風景からいつしか田園風景に変わっていた。トンネルを抜けると渓谷が電車を並走するように流れている。(何だ?これ…クソ田舎じゃねぇか。先が思いやられるな〜)鉄橋を渡ると間もなく目的の駅に到着する。

しばらくして、車掌の乾いたアナウンスが車内に響いた。「お客様にご案内いたします。間もなく和歌山、和歌山に到着します。お忘れ物のない様にご注意ください。」電車は静かにホームに滑り込んだ。

改札口に向かうと大学の後輩のテホが大きく手を振った。「先輩!ヒョング先輩! ここです」「おう、テホ、わざわざ悪いな」テホは大学の寮で隣部屋だった後輩である。学年は違うが、大学時代にはよく2人で飲みに行ったり恋愛相談に乗ったりしたものだ。ヒョングは和歌山出身のテホにちゃっかり迎えを頼んだのであった。

「本部はここから近いのか?」「何言うてんのソンべ、10時迄ちゃうのん?もうとっくに遅刻やで。きっと初日から大目玉食らうやろうから覚悟しときや」 時計はすでに11時をまわっていた。「しょうがないじゃん。こんなに遠いとは思わなかったんだから…しかし、クソ田舎だな〜。何にもねぇじゃねぇか」と言って笑った。

「何でやねん、ちゃんとビルもあるし近鉄百貨店もあるやん」と駅前の繁華街を見渡した。駅前にはデパートと喫茶店、居酒屋、寿司店などが数件並んでいる。「急いでくれよ。怒られたらお前のせいだからな」と車に乗り込んだ。「ソンべ、そらないわ〜」と言いながらテホは車のエンジンをかけた。

10分後、ヒョングは本部に到着した。大通りに面した鉄筋5階建ての本部の2階の応接室では本部委員長、教育部長、校長、そしてヒョングと一緒に和歌山に赴任して来たキム・チョンファとリ・ジョンスンがヒョングを待っていた。「すみません、思ったより遠くて遅くなりました」とヒョングが扉を開けて深々と頭を下げると、新人教員を除く3人はホッとした表情で微笑んだ。怒られると覚悟していたヒョングはちょっとホッとした。

簡単な挨拶を済ませたのち、一行は校長が運転する車に乗って学校に向かった。途中、軽食喫茶の駐車場に車を停めた校長は「ここで軽く昼食をとりましょう」と言って店内に入って行った。

食事をしながら校長は人なつこそうな笑顔を浮かべながら「いや、ヒョング君が来ないんじゃないかと心配しましたよ」と安堵した理由を話してくれた。白髪交じりの小柄な校長の顔を見ながらヒョングは遅刻を責められなかった理由が解って何となくあった胸のつかえは取れたが、次の校長の言葉が胸に刺さった。

「ヒョング君そしてチョンファさん、ジョンスンさん。田舎に来たからといって1〜2年で帰ろうなんて思わず、骨を埋めるつもりで頑張ってください」ヒョングは校長に心の中を見すかれたようで下を向いて視線をそらした。