ジンスーMy love ⑫

ジンスは日が変わっても、あの時のシチュエーションを頭の中で繰り返し再生していた。「백주대낮에 무슨 괴이한 짓인고〜」なる韓国時代劇の台詞がピッタリで吹き出しそうだ。彼は(たら、れば)を加味して脚色も試みる。服を着てと言わなかっ(たら)とか、妻からの着信がなけ(れば)とか妄想は尽きない。

電話の後、ミミは「오빠는 집에 가야겠구나」と独り言のように呟き、淋しそうに微笑んでいた。ジンスは、そうだとしか答えられなかった。「でも오빠が紳士で良かった。전화해〜」と言い残してミミは帰って行った。ジンスは彼女の背中に向かって「다음에 밥 먹자」と一言投げるのが精一杯…

あれから数日が過ぎたが、ミミからの連絡はない。ジンスから電話をすれば済む話だが、彼はミミと次に会う時のイメージが描けなくて発信ボタンを押せずにいた。彼はミミにときめいていた。そのせいで、ミミへの次なる一手に対する妙案が浮かばないのかも知れない。ジンスは何日か無為に送りはしたが、仕事は平常通りちゃんと推し進めていた。そんなある日、仕事以外の電話がかかってきた。

奇しくも현주からの着信だった。ショートメールはしあうが、通話するのは何日ぶりだろう?현주は明るい声で「ジンス 잘 있지?久々に話せるなぁ」と用件を言い始める。「한국영화のビデオテープ持ってる?あったら何でもいいから送ってほしいねんけど」と彼に尋ねる。

「何本か持ってるよ。送りは학교宛でいい?」と聞き返すと「うん。そうしてや。南の언어소양 高めんとアカンねん。何か애들引率して南に行くみたいやし」と続け「パソコンのアドレスを後でメールして。また話そうな」とせわしなく電話を切った。

歴史的な金大中の北訪問を契機に、総聯系一世同胞の故郷訪問が実現したし、南の著名人による우리 학교見学も公然と行われるようになっていた。その延長で、우리 학생達が南に招待されると聞いた事があった。通話によって、ジンスの脳裏にしまってあった현주への思いが、またザワつき始めてしまう。全く思慕ってヤツは扱いにくくて厄介だ。でも通話は嬉しいからしょうがない。

彼は手元にある韓国の映画ビデオ数本をピックアップして荷造りに取りかかる。<광복절특사>, <신라의 달밤>, <달마야 놀자>,<선생 김봉두>のVHSを箱に詰め、その日のうちに発送した。そうしながらジンスは、彼女からのお礼とテープの感想連絡を待ちわびる、待機モードのスイッチを無意識に押してしまう。この時はミミに対する思いは小休止になっている。

仕事は真面目にキッチリこなすが、この辺はけっこうゆるくて気まま。異性への揺らめく気持ちはジンスが自覚しないもう一つの側面なのかも知れない…

         続く