3年12班の愉快な面々　30

舞台袖にはけたCFは声のする方に顔を向けた。舞踊部のス◯だった。「ありがとう、ス◯」と言った後で（あ、そうだ。まだ公演は終わってない。舞踊部の伴奏までしっかりやらなくちゃ）と気を引き締め直したCFは、オーケストラボックスにいち早く戻り伴奏の準備を整えた。

先生の指揮棒が波打ち始める。舞踊「조국의 사랑은 따사로워라」の幕が上がった。スモークが焚かれた舞台の真ん中にス◯を始め舞踊部の面々が優雅な姿を現した…

「ほぉー…」
場内からため息が漏れた。

8月の中旬に部長とス◯が先生に呼ばれた。「演目が決まったわよ」「えっ、どんな演目ですか？」
先生は「조국의 사랑은 따사로워라」と言った。

1959年ウリナラから「教育援助費と奨学金」が初めて送られて来た時の喜びを表した内容だ。日本と言う異国の地で、民族教育を行う自負と誇りを表す…

ス◯は身震いした。（最後の舞台に相応しい内容だわ。一世の喜びをしっかり表現してみせる）と改めて気を引き締めた。部室に戻りながら部長は「やり甲斐のある内容ね。でも、内面の表現が難しいかな？ス◯はそう言う部分は得意だから大丈夫だね」と肩を叩いた。

練習が始まった。
ス◯を始め舞踊部のメンバーは必死に練習に取り組んだ。また練習だけではなく、当時の喜びを知るために一世の同胞の話を聞いたり、本を読んだりして内面的な充実を計った。

舞踊は、つま先から頭のてっぺんまで細胞を総動員した身体の動きで表現する。独特な足の運び、指先の微妙な動き、視線と顔の表情…その全てを通して内面の感情を吐露する。その中でも、情感溢れるス◯の動きに、練習を見守る部員は驚きの声をあげる。「ス◯オンニ、素晴らしいですね。目が釘付けですよ。」と後輩達も羨望の眼差しを向けた。ス◯はニコリと笑う。（まだまだ。もっと感情を表現出来るはず。）と、より一層練習に没頭した。

公演の日程も決まり2学期になった。舞踊部は最終の調整に入った。連日の猛練習が続く中、最後の貫通練習の日が来た。練習に明け暮れてたス◯は疲れからか、朝から体調がすぐれなかった。しかしそんな事はおくびにも出さず、いつもと同じ様に振舞っていた。

朝から授業を抜けて文化会館で練習を行う。朝の公演前の文化会館の独特な雰囲気と匂いがス◯は好きだった。公演が始まる前のピリッとした空気が心地良かった。「さぁ、最後の通し練習よ。気合い入れて行きましょう！」部長が声をあげた。「옛！」一同声を上げた。

ス◯は2階の観客席を見上げた。そこには授業を抜けて見に来た12班の仲間達が来ていた。Mリ、NM、Eス、ソンスンを始めとした女子。Hソン、Gチ、Y男達男子、そして…Sス。12班の愉快な面々はス◯に向かって手を振った。ス◯はにこやかに笑い手を振った。「おいSス、顔がにやけてるぞ」とGチがからかう。「そうかな？」悪びれる事もなくSスは笑った。