春のうららかさを感じよう

介護のジカンー姑編㉖

夫と二人で施設にお見舞いに行くと、姑は相変わらず人形を抱きながらボーッと一点を見つめている。

だが、夫の顔を見た途端に姑の顔から満面の笑みがこぼれる。
介護士:金さんはイケメンが大好きなのよねー。
私:そうなんですか?
介護士:ええ。
イケメンと言われて年甲斐もなく喜ぶ夫。単純だな~。お世辞に決まってるじゃん。
介護士:若い男性職員が来ると、私なんか完全無視で彼のそばから離れないんですよ(笑い)
私:はぁ~
介護士:この間もね、男性職員がほかの入居者さんをトイレに連れていったら、普段は滅多に立ち上がらないのに、韓国語で何か叫びながらトイレまでついて行ったんですよ(笑い)
私:え? 自分で歩いたんですか?
姑はこの頃には既に足腰が弱っていて、移動はすべて車いすで行っていたのである。
介護士:そうなんですよ。入浴の時も男性職員だと恥ずかしがって隠すのよ(笑い)。それでね、私が交代するとたちまち機嫌が悪くなるの。金さんは、まだまだお若いのよね~
私:はぁ~

私は思わず苦笑い。意識がしっかりしていた頃の姑は、男女の色恋に厳しく、理性を保つ人だと聞いていた。若い頃は義夫の浮気現場に乗り込んで相手の女性を理詰めでやっつけたこともあるそうだ。

若くして夫に先立たれてからもほかの男性には目もくれず、お店と子供たちに捧げてきた姑が今は本能で動いている。まあ、これが自然なのなろう。今まで理性で抑えてきたから、もうタガを外してもいいんだよね。ハンメ。

そんなことを思いながら姑に目をやると、隣に座った夫の手を両手で握って頬ずりしている。それまで抱きしめられていた人形が床で恨めしそうに姑を見つめている。