駒沢運動公園内にある体育館では白熱した試合が行われていた。男女共前評判の高かった和歌山初中は、順当に勝ち進み、男女共決勝までコマを進めた。
男子の決勝戦が始まった。相手は地方予選と同じ強豪東中である。地方予選では悔しい敗北を喫しただけに選手たちはリベンジに燃えていた。絶対エースを中心にオーソドックスな試合運びをする東中とは対照的にオープン、ライト、クイックと多彩な攻撃を仕掛ける和歌山初中。
試合序盤から好ゲームを繰り広げたが、セットポイントを先につかんだのは東中だった。相手のサーブが微妙に揺れてサービスエース。和歌山初中は最初のセットを落とした。
第2セット開始前、チソン先生が「自分の力を信じろ!」と言いながら選手たち一人ひとりのケツをたたいた。その激が効いたのか第2セットに入ると硬さが取れた学生たちはのびのびとプレーするようになった。オープンからのアタック、ライトからのストレート、センターからのクイック…。多彩な攻撃で相手を圧倒した。
セットポイントも相手が返したボールを正確にセッターに渡してセッターは綺麗な放物線を描いたトスをオープンに上げた。コート脇でチソン先生が叫んだ。「行けー!」エースアタッカーが高い打点からアタックを相手コートにたたき込んだ。「ピー」第2セット終了。「ヨーシ!」歓声が上がる。和歌山初中はセット数で並んだ。
最終セットも和歌山初中ベースで進んだ。「このまま和歌山初中の優勝か?」と誰もが思ったが東中の選手交代で流れが一気に変わった。東中が“秘密兵器”を投入したのである。「バコーン!」目一杯伸ばした和歌山初中のブロックの上から、交代選手の力強いアタックが立て続けに決まった。
「な、何だ?あいつ…あれだけの実力があるのに、なぜスタメンじゃなんだ?」チソン先生がうる。“秘密兵器”によって点数はあっと言う間にひっくり返された。自慢の多彩な攻撃も鳴りを潜めた。
「ピー」試合終了のホイッスルが鳴り響く。勝利を確信していた選手たちは呆然と立ち尽くした。(負けた!)だが、次の瞬間、チソン先生をはじめ和歌山のすべての関係者たち、そして観客たちが拍手で両校の選手たちを称えた。
「お前ら、よく戦ったぞ!」ヒョングも力いっぱい手をたたきながら選手たちに声援を送った。後に聞いた話だが、東中の“秘密兵器”はすばらしい身体能力の持ち主だが、呼吸器に疾患があるため長時間の運動はNGだったそうである。