翌日、手術は無事に終了した。摘出した腫瘍も良性であることが判明しヒョング一家は胸をなでおろした。順調に回復すれば2週間程度で退院できるらしい。アボジの意識が戻ったのを確認して、その日は家族で家に戻った。
「よかった~。手術がうまく行って」遅い夕食を食べながら弟がうれしそうに言った。「本当によかったよ。検査も良性だったし」オモニの顔に笑顔が戻った。明日には和歌山に帰るヒョングは黙々とご飯を食べていた。学生たちの試験のことを気にかけているのだ。「ヒョング、心配かけて悪かったね。帰ってきてくれてありがとう。ムリしたんだろ?」「家族なんだから当たり前だよ」そう言いながらもヒョングは学生たちの顔を浮かべていた。
リーンリーン… 突然電話が鳴った。ソンスとミョンジャからの電話だった。ヒョングを勇気づけようと寮の公衆電話から遠距離電話をかけてきたのである。「もしもし」受話器からミョンジャの声が聞こえてきた「ソンセンニム、アボジの容体はどうですか?」「うん、手術は成功したよ」「みんな試験よくできたから、こっちのことは心配しないでください」受話器の向こうで「早く貸せ」と催促する声が聞こえる。「横に誰かいるのか?」「ソンスが貸せってうるさいから代わりますね…ほら、しゃべり…」ミョンジャがソンスに受話器を渡す光景が浮かんでヒョングは小さく微笑んだ。
「ソンセンニム!」ソンスが大声を出したのでヒョングは受話器を耳から少し遠ざけた。「お前、声がデカいよ」「ソンセンニム、俺たち、ソンセンニムの分まで試験頑張りました!」「ソンセンニムの分までって…俺は別に試験受ける立場じゃないんだけどなぁ」「だからソンセンニムも元気出してください!」自分を励まそうとする2人の気持ちがありがたくて鼻の奥がツンとする。隣で聞いているオモニも静かに目頭を押さえていた。
通話が終わり、再び食卓に戻るとオモニが満足そうな笑みを浮かべながらヒョングを見ていた。「お前、ちゃんと先生やってるんだね」その声には母親としての喜びと息子に対する誇らしさが溢れていたが、若干の寂しさも垣間見える。それは息子が自分から遠ざかってしまったような、母親特有の寂しさなのだろうか。
あらあら、ミョンジャが電話をしてくれるなんて…自分の為に奔走してくれてる선생님の姿に寂しかった気持ちも薄れて来たのかな?