1本の樹にもー新米教師奮闘記⑨

試合会場は学校から車で10分ほどの日本の中学校。体育館では既に試合が始まっていた。わが校を含めた何校かで総当たり戦の練習試合が行われていた。ヒョングは学校の車で中3の担任と試合場に向かった。

熱気に包まれた体育館には教務主任の大きな声が響いている。学生たちを熱血指導していた教務主任がヒョングたちに気づいて手招きをした。選手たちも一斉に振り返ったが、ホイッスルの音とともに生徒たちはコートの中に散っていった。「今から試合や。相手は県大会でベスト8まで残った実力校やで。まあ、楽しんで見てや」と話す教務主任の顔は自信に満ちていた。

(ベスト8って強いじゃん。ホントに勝てるの?)というヒョングの心の声が聞こえたのか中3の担任が「多分勝てる」と小さくつぶやいた。(そんなに強いんだ〜。こりゃ期待しちゃいますよ)だが、向こうには背が高く腕も長い選手が揃っていて、どう見ても相手が強そうにしか思えない。(ヤバくないか?)

試合が始まるとヒョングは、それがムダな心配だったことに気づかされた。学生たちは教室では見られないはつらつとした姿で、コート狭しとボールを追っている。特にエースのキム・スノ、ライトのソン・ミョンジャは素人の目にもうまさが際立って見えた。

「ピピーッ!」試合終了。セットカウント2ー0。圧勝である。試合を終えた選手たちがハァーハァーと息を切らせながら教務主任を囲んだ。一人ひとりの表情に自信と喜びがうかがえる。いつもなら教務主任がここでねぎらいの言葉をかけるのだろうが、今日は何も語らずヒョングの顔を見た。

「ヒョング先生、どうでしたか?」。「いや、あの…」 突然振られて最初は慌てて言葉が出なかったが、次の瞬間、学生たちの顔に視線を向けながら丁寧に感想を語った。

「…お前ら強いな〜正直ビックリしたよ。特に…」と生徒一人ひとりを褒めるヒョングの感想の言葉に、学生たちははにかみ下を向く。横で教務主任が小さく笑いながらヒョングを見ている。(コイツ…堅苦しい感想を言うのかと思ったが、ストレートなやっちゃなぁ。コイツはオモロイ先生になるかも知れん)

ヒョングは夕暮れの田舎道を物思いに吹けながら歩いていた。バレー部の補助教員を受けるかどうかの結論を出さなければならないのである。学生たちのはつらつとした姿が脳裏に焼き付いている。いきいきとしたその表情は本当にまぶしかった。彼女たちを応援し一緒に頑張りたい気持ちはある。が、バレーを全く知らない素人の俺が入ったら、かえって足を引っ張ることになるのではないか?

俺のせいで生徒たちの大切な青春が台無しになったら?…不安が次から次へと湧いてくる。ヒョングは心を決めた。(やっぱり断わろう)夕焼けに染まる空の遠くでわびしそうにカラスが鳴いている。

1 COMMENT

元バレーボール部

えー!
형구선생님、断っちゃうの?
自分が入ると足を引っ張ってしまうのではないか?…
う~ん。分からなくもない。
夕焼けに染まる空の遠くでわびしそうに泣いているカラスに共感。カァカァー💧

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