【投稿】目に見えない努力

結婚式や授賞式のスピーチや演説には「頃合い」というものがある。 よく言われる通り、つまらない話ほど長い。聞き手が「この辺でちょうどいいね」と飽きてきても続き、「そろそろやめとけばいいのに」と呆られてからもまだ続く。話の切り上げ方がとても下手な人っていますよね。

話すリズムや時間の感覚をつかみ、自分の話が長いか短いか、内容がこの場にふさわしいかどうかは、感性で察しなければいけないと思う。話している最中に空気を読んで、さっと切り上げるのもまた感性だと思う。

アメリカの大統領にはスピーチの内容はもちろん、目線の向け方や身振りまでアドバイスする専門家がついているそうだ。お見受けする限り日本の政治家にはそういう演出家はいないみたいだ。

でも、他人に何かを伝えるための演出って難しい。自分は伝えたつもりでも、うまく伝わらなかったら伝えたことにはならない。引きつける話の力と余韻を残しながら、引き際をわきまえる感性。これは私たちにも欠かせない資質です。気を付けよう、人のふり見て我が振り直せだ。

歳は私の一つ上で、在日の経済界の中では三本指に入る先輩がいる。その方の結婚式でのスピーチが毎回素晴らしく、流暢な言葉と場をわきまえた言葉にいつも感動している。

ちょうどその先輩と会う用事があり、その「秘訣」について教えてもらったところ、意外な答えが返ってきた。

それは、結婚式や招待された会場でのスピーチの前に、前日までに原稿を自分で書いて、それを夜中に声を出して読み上げ、その様子を妻に見てもらっているのだという。

正直、驚いてしまった。 会場に招待されたり、スピーチを頼まれた場合には、事前にその会社や人のことを丁寧に調べ、自分なりに原稿を書いては声に出して本番さながら話してみる。そしてその会話の内容が実際どうなのか自分で精査してみて、最後に出来上がった原稿を丸暗記するのだそうだ。

そうすると、話すリズムや時間の感覚をつかんで、とっさに文章を途中で切り上げたり、簡潔に済ますのも簡単だという。

スピーチや演説が上手いのは、持って生まれた才能ではなく、隠れた努力だったということを改めて思い知らされた。私もそういうことは見習わなきゃと改めて感心した次第です。