受付に行き彼女の支払いはどうなってるのか尋ねると、支払いはチェックアウト時になるとの返事。ジンスは先払いで自分が払うと伝えて提示額よりもかなり余分に預けながらチェックアウトまで彼女には言わないでと念を押した。受付嬢は心得てますと言わんばかりにニッコリとうなずいていた。
部屋に入って荷物をほどきながら현주は大きな深呼吸をした。彼女の心臓はバクバク状態だった。ジンスに会いに来てしまった己の大胆さに心の折合いがついていないままだから。耳が熱いからきっと顔も紅潮してるのだろうと彼女は思う。更に数回深呼吸をして鏡で「平静な表情」を映しゆっくり1回転して服装のチェックをしてから部屋を出た。
ロビーで待つジンスはある事に思い至る。현주は何かのついでとかではなく自分に会うためだけに来たというその一点。親戚や친구の家に泊まらないのはこの再会は二人だけの秘密ということなんだと合点がいく。
「미안, 기다렸지?」微笑みかけてくる현주の顔を彼はマジマジと見た。彼女は「ちょっと老けたなぁ라고 생각하고있지」としかめっ面で詰め寄って来る。ジンスは「아니. 너무 곱다」と言いながら咳き込むふりをした。「嘘言ってムセてるやんか。ジンスは全然変わらへんねぇ。조대시기のまんまや。」
こんなやり取りをしながら二人はホテルをあとにして近場のちょっとシャレた居酒屋ののれんをくぐった。
まずは生ビールで乾杯。オススメはざる豆腐だと店員が言うので他のツマミと共に注文した。ジンスは彼女を退屈させまいと記憶にスロットルをかけ共通の思い出だろう事柄を会話に詰め込んでみたりする。
「そんな事あったん?잘 기억하고있다네。」
しばしば話が彼女の記憶に触れないこともあり戸惑ったりしたが、彼女は「どってん焼食べたの憶えてはる?」と別の話題を提供して会話を切らさない配慮をしてくれた。4年の月日は共有したけど、思い出は必ずしも共通ではないし、人それぞれなのだ。当時の二人の親密度は多分普通以下だったから当然とも言える。でもお互い知らなかったり忘れていたコトが新たな発見になったりして話題は尽きなかった。
店自慢のざる豆腐がとても美味しくて二人の会話を盛り上げてくれる。店員がきて「傍から見てすごく楽しそうで羨ましいですね」と言いながら空き皿を片付けて離れて行く。実は大学時代の二人はある意味水と油のような間柄だった…
続く