21世紀になった。ジンスが正月休みを終えて出勤した時、宅配便の不在票が事務所のドアに貼り付けられていた。差出人は강현주と書いてあった。新年の初仕事が宅配業者への連絡となったことが幸先良しと思えるから不思議だ。宅配の車がちょうど事務所近くを走ってたので荷物はすぐに届いた。A4サイズの小さなダンボール。開けてみると二つの白い封筒と紺色の革のブックカバーが入っていた。
封筒の1つは商品券3千円分、もう1つはジンスへと書かれた手紙だった。モノよりも手紙が嬉しい。ジンスはラブレター調の文面かなとドキドキしたが、新年の挨拶程度だったので拍子抜けする。でも文の最後の方に보고싶다と書かれてたので自然と笑みがこぼれてしまう。ともあれジンスの新年の仕事は楽しい気分でスタートした。
正月明け早々からジンスの携帯は鳴りっぱなしだった。新年会やりましょうと、取引先や同級生からのお誘いがひっきりなしで、仕分を要する位だ。取引先を優先するしかないが、接待を兼ねているから支払いがどっち持ちでも面倒くさい。朝鮮人だろうと日本人だろうと、もれなくコリアンクラブが大好きなので、上野や新宿界隈で騒ぐのがパターンになっている。
ジンスもアガシは好きだが、彼女らとどうにかなりたいとは思わない。アガシにハマり借金まみれになったり、家庭崩壊した多くの方々の成れの果てを見聞きしてきたからだ。ジンスは愛人を囲って養うほど稼いでないから、アガシを追いかけたりもしなかった。だが、“据え膳食わぬは…”については彼も世の男性とご同輩でしかない。
仕事はじめの夜、ジンスはパチンコ店のオーナー息子であるリ先輩に同行した。韓国家庭料理が一次会の定番だが、この日は高級感漂う寿司屋に入った。季節がらふぐのコースもあり、刺し身と鍋を堪能した。ジンスは(현주とまた東京で会う機会があったらこの店も候補だな。馴染みになっちゃおう)と思い店のマッチをポケットに入れた。一行はリ先輩のお目当てのアガシがいる店に移動した。
「새해 복 많이 받으세요」の挨拶が行き交う中席についた。先輩のご指名はダイナマイトボディーのチーママだ。他に二人のアガシが座った。一人は可愛くて、もう一人は知的な雰囲気。普段のジンスならラッキーと思っただろう。だが今宵の彼はこの状況に特に関心が向かない。
アガシの語りかけに応じたり、下ネタ話で笑いは取るが気持ちは別のところにある。(新しい歌を憶えて현주に披露するぞ)と、また彼女との先の事を想像しまくっているのだ。ジンスの心中など知る由もないアガシたちは、彼が女にガツガツせず紳士的でスマートに見えたようで勝手に好感度をアップさせていった。ジンスが知らぬ間に、アガシと交わる新展開のドアがゆっくり静かに開いていた…
続く