全生園の記事を見て十数年前のことを思い出しました。当時、舞踊家の金順子先生が全生園で韓国舞踊教室を開いていて、園内で暮らす在日の年配のご婦人たちが韓国舞踊を一生懸命習っていました。
ある日、発表会を開きたいので協力してほしいと言われて着付けや舞踊用のお化粧などをお手伝いさせていただきました。私は化粧が苦手で自分の顔もろくに作れないので、某歌劇団の現役舞踊手2人に協力してもらい入居者たちを美しく飾りました。
生徒さんたちはご年配者ばかりでしたが、あでやかな衣装とキリっとした舞台化粧に子供のように喜ぶ姿が印象的でした。ハニカミながら색동のチョゴリに袖を通し、真っ赤な口紅に大笑いするその笑顔は今も忘れられません。
私自身ハンセン病をあまり知らず、映画「砂の器」や韓ドラの「ホジュン」ぐらいしか思いつきませんでしたが、その時私が目にした生徒さんたちはそれらの印象とは全く違った〈ごく普通の人〉たちでした。
発表会が終わって帰りがけに代表の方から手紙をもらいました。家に帰って開いてみると、うれしさを綴った手紙と一緒に〈感謝〉と書かれたティッシュ―ペーパーに包まれた1万円が入っていました。その気遣いに胸が熱くなって涙がこみ上げました。
私よりも20~30歳ぐらい年上の生徒さんたちは、社会の無知と偏見の中で相当つらい人生を歩んでこられたはずなのに、そんな悲しみを全く感じさせないほど明るくて人を労わる優しさにあふれた人たちでした。あれから長い時が過ぎて当時の生徒さんたちも今はいらっしゃらないと思いますが、全生園の名を聞くたびに今でも心が温まります。