おかしな娘のオモロイ話(3)ー大学入試

私は、算数や数学が 大の苦手。
成績表がオール １０だったのは初級１年の一度きりで、２年生から算数は ９ だった。 数字も、図形も、応用問題も、とにかく全てが苦手だった。

しかし、私にはとっても良いところがあって、決してめげない。算数ができなくったって、目標点数は毎度１０を目指していた。ドリルもめちゃくちゃ解いたし、参考書だって毎年買っていた。

だけど、努力とは逆に数学の点数は年々下降線とたどり、高校の時には数学のせいでついに最優等のランクから落ちた。
クッソー！
でもめげない。そして開き直った。｢数学なんてできなくたって、人生、生きていけるわ♪｣

高校の頃から作文が得意だった私。
（そうだ！ 文系の大学に行って文系の仕事に就けばいいんだ。数字に一生無縁な世界で生きていけばいいんだ）
というわけで、進学する大学は朝鮮大学校の文学部に決定。もちろん事前にチェックし た授業カリキュラムには数学なんてない。
よっしゃー！

でも、１つだけ問題があった。文学部に入るための入試に数学がある。 しかも範囲は高校３年間分。
いやいや無理だろ。今から数学３年分だなんて、絶対に挽回できない。

この頃の私は、どうにか数学の試験を受けなくて済む方法はないかと知恵をしぼっていた。 どう考えても試験を受けないなんて不可能なのに、すぐに知恵をしぼってしまう。

まずは先生に交渉だ。当時の私は在日作文コンクール高校の部で３年連続１等を取っていたりして、とにかく作文には自信があった。
よし！ 担当の先生にアピールしよう！

教員室。
「失礼しまーす」
扉を開けて国語の先生の席に直行。
私：私、作文１等賞なんですけど文学部推薦とかないんですか？
先生：は？
先生は豆鉄砲をくらったような顔。
私：文学部の先生に聞いてみてください。作文１等賞の人は推薦で入れないんですかって。こ のままじゃ入試に落ちちゃいますよって！そうなったら文学部にとってもダメージでしょ？
アピールを通り越して、ただの勘違いヤロウ。
先生：無理だろ。普通に勉強しなさい。
こんなしょうもないことにも丁寧な対応を求められるのだから、先生はホントに大変である。

やはり無理だった
そうか～、推薦枠はないのか～。

次に考えた作戦はものすご～く一般的で、試験中にお腹痛いってウソをつく作戦なのだけれど、
うーん、でもこれはやめよう。 ウソへのドキドキ感で、他の科目に力が入らない。
やっぱりなんとか勉強するしかないかぁ～～

学校では、毎日歴代の試験を模試としてやらされていて、 私は数学だけは３点とか４点だった。
あれ？
何度か模試をしながら、 試験の共通性に気づく。
そもそも、数学の答案用紙の２枚目は問題を出す側も全然やる気がなくて、 問題が２つだけなのだ。 何かしら証明する問題。
大きな用紙にたったの２問だけ。
私はこの２問が絶対に解けないから、少なくとも ４～５点は捨てているわけだ。
なるほど。
点数を上げるカギは２枚目だな。

私は少し勉強方法を変えた。
証明の問題と答えを丸ごと全部暗記したのだ。 これなら１００％解ける！
この暗記作戦がうまく行きすぎて、それからの私は２枚目で点を稼げるようになった。

先生もびっくり。
先生：お前、どうした？
私：すごいでしょ。やればできるんです！ 全部暗記してます！！

すごい自信マンマンに言ってやったのだが、同級生の中で ｢あいつ、数学問題を覚えて勉強しているらしい｣とウワサになって 変人扱いされてしまった。
でも構わない。この入試が終わったら、私は数字とか図形のない世界で生きていくんだから。

２枚目の問題にどんな問題が出てくるのかがカギだから、 私は先に２枚目から解くようにした。だって、知ってる問題なら５分で解けちゃうんだもん。

入試当日。数学。私と数学の 決別の日。
何の証明が来るんだ？と、まず２枚目を確認したら、 なんと問題が３つあった。
え？
やられたー！ 想定外すぎる。

３問のうち、かろうじて分かる問題は１つ。だけど少し数字が変わ っていて、暗記通りでは不正解になる。
いちいちこりやがって！

でも大丈夫。だって私は、ちゃんと問題も覚えている。だから問題のどの部分の数字が変わっているのかがちゃんと分かるのよ。 暗記した問題と答えをひとまず書き出して、照らし合わせて数字を変えていった。

よっしゃー！ようやく１問解けた！

問題はあと２つ。 しかも、こんな問題見たことない。
クッソー。数学めちゃくちゃ勉強したのに…
一番悔しいのは、白紙で出して、採点する先生に ｢この子、全然勉強してないな～｣って思われることだった。
違う。 私は、めちゃくちゃ勉強をした。それだけはしっかり証明したい。でも…分からない。どうしよう…

【座標平面上に点 A(0,1)をとる。X軸上に点 P を取り、線分 AP の垂直二等分線をｌとす る。点 P を通り X 軸に垂直な直線とIとの交点を Q とする。AQ＝QP であることを証明 せよ】
答える以前に、問題の意味がチンプンカンプン。

ここでひとつ、すごい名案を思いついた。こんなこと、やったことないから少し勇気がいるけど、やらない後悔よりやった後悔だ！！

というわけで、問題２問を二重線で消した。そして自分が暗記した問題を自分で書き直した。
その下に、暗記した答えを書く。

２枚目の答案はめちゃくちゃな答案になった。
でも、白紙ではない。白紙でなないし、書き直した問題と答えだけを見ると完璧に合っている。
よっしゃー！

朝大入試の良いところは、機械ではなく先生が採点するところ。
きっと私の努力は 報われるだろう。
入試には合否しか出ないので点数は分からない。
しかし私は無事に 文学部に入学した。

１年後。 朝大入試を控えた後輩と話していたら、こんなことを言っていた。
事前に、入試に関する注意事項をいくつか指摘されたらしい。
｢忘れ物をしないように｣
｢名前は必ず書くように｣
そして
｢問題を書き換えないように｣
ん？

そして後輩は言う。 ｢最後の項目、結構意味分かんないんですけど、問題を書き換えた人が過去にいたみたいなんですよ ～！ヤバくないですか？ そんなこと、いちいち言わなくても普通やらないですよね？｣
今まさに ヤバい人がきみの隣にいるぞ。

私が入試の問題を書き換えてしまったおかげで、全国の朝高のうち東京朝高にだけ ｢問題を書きかえないように｣ という、なんともバカ丸出しな１項が 事前アナウンス項目に足されてしまった。
なんだかみんなに対して、ごめんなさい。

ちなみにそれからの私はというと、数字と縁のない世界にはたどり着けなかった。 人生とはホントに不思議なもので、 朝大を卒業したあとの私はとある病院の経理に配属された。

ん？
希望は医療事務課だったのだけれど、人がいないということで経理に回されてしまったのだ。
もっと適任がいると思うけど…
そう毎日思いながら 仕事を覚えている。