話は少し遡る。
あの晩〈영순이네 포장마차〉で男が投げたチヨンのスマホを受け取ったのは誰あろう김재광だった。彼は友である로영주や홍창영に見つかりはしないかとヒヤヒヤしながらも己の役割を見事に果たした。そしてコピー機材を不動産事務所の奥部屋に持ち帰り、クローンスマホを二台作り上げた。
でもコピーされないモノがある。チヨンのスマホにあるはずの監視ソフトはそれらしい痕跡はあるもののコピーされてないのだ。김のスマホにイタズラ出来たから仕掛けた側をコピーすれば解析可能と思っていだけに彼は意気消沈した。工作員のスマホをコピーしただけでも凄いのに、だ。
(こりゃ相当なモノだ。CIAやMI6なみの優れ物ってことかい。南もやるねぇ)と何とかプライドを保つ재광。つまり監視ソフトは韓国大使館の特殊サーバーに連結した、情報部門のパソコンでのみ扱えるシロモノで、そのパソコンから相手に仕込む。スマホへの移植は単体端末に限られる。新たな標的への仕掛けもこの作業を要する。スマホから相手への仕込やスマホ同士の移転やコピーはNGの仕組みだ。
クローンスマホはなりすまし可能、チヨンのスマホの発着信や通話盗聴はOK、保存データも覗ける。なので、巷のスパイアプリで間に合う位だ。재광の興味が未知なるソフトの分析に注がれていたため、彼はスマホの保存データがもたらす価値には考えが及ばない。彼は指示通り1つを中国のとある宛先に発送し、もう1つはあの男に渡した。勿論自分用にも保存して置いちゃう…
そして今、あの男(강홍)は歯ぎしりしていた。価値も希薄で扱い難い김が自ら재광を訪ね、運良く監視ソフトの件に気づいた代わりに、ITオタクの재광にその正体を見抜かれてしまった事を思い出すとはらわたが煮えくり返る。覗き見の逆利用で監視者を特定出来たのはせめてもの慰め。でもスマホコピーが期待大だっただけにその結果に落胆する。
保険措置で新たに放ったエージェントに박지영が食い付いたのかは、今後の盗聴と報告に頼るしかない。監視ソフトを仕掛けられたのかは現時点では分からない。工作員の不文律(リスク管理上工作員同士の横の線を繋ぐのは厳禁)を自ら犯す訳にもいかないので、男の苦悩は深まるばかりだ…
チヨンは松山に対する覗き見を起点に、スパイ活動をスタートさせる……
続く