最近チヨンは誰かに見られてるような感覚に囚われている。休みの日の昼、部屋にいると窓の向こうのビルで何かが陽光に反射したのがその始まり。反射光は間違いなく自分の部屋を射抜いていた。1回目は気にしなかったが、反射は2回、3回と起きたのでチヨンはそれが望遠機器による反射光に違いないと思った。
わざとベランダに出て体を伸ばし部屋に戻ってカーテンを閉めた。買い物がてら外に出ると、いつもと違う空気を感じる。チヨンも訓練を受けている工作員だ。彼女は尾行があるのか確かめる為、出来るだけガラス材のビル壁が多いコースを歩いてみる。
一定の距離を取りながらついてくる男の姿がガラス材に映るが、果たして尾行なのか?夜の仕事柄客が勝手にハナに恋心を抱きストーカーをしてることもありうるし。チヨンは買い物を済ませ家に帰ったが、後ろに男の姿はなかった。考え過ぎかな?でもそうではなかった。
ジムに出かける時も帰る時も尾行は認知できた。ストーカーではない手慣れた追跡行だ。誰が何の目的でと考えを巡らすとあることに思い至る。김の警告だ!自分に対する相手側のアクションが、いよいよ始まったのかと思うと背筋が寒くなる。
味方にも迂闊に相談できない事案だ。尾行される理由を追求されるし、チヨンの正体が露呈したと勘繰られてしまうからだ。チヨンは追跡者が誰なのかをまず確認しよう、それから対処法を決めようと段取りして、全身をアンテナにして追跡者の特定に取り掛かった。
そして、遂にチヨンは尾行してる男を突き止めた。意外にも記憶の片隅から男の正体が浮かび上がる。数カ月前に홍창영や로영주に同行して入った〈영순이네 포장마차〉に来ていた〈パスポート〉の店長だった。
男が想像通りの輩ならプロフェッショナルに違いないし、万一実力行使にでてきたら対抗できないだろう事はチヨンにも分かる。チヨンはある作戦を思いついた。その結果を思い浮かべると笑いが噴き出してしまいそうだ…
男は尾行がチヨンに発覚したとは露ほども感じていない。チヨンに何がしかの打撃を与えたいが、コピースマホの成果を天秤にかけると釣り合いが取れない。敵への暴露は己の破滅を意味するからドン詰まり感は深まるばかりだ……
続く