(そういえば、待ってるとは言わなかったな…)ヒョングにはミョンスンという彼女が東京にいる。美人とはいえないが、笑顔がチャーミングで笑うと目が線になる。ヒョングより1歳年上だが、一緒にいると自分のほうが年上に思えるほどヒョングに頼る平凡で控えめな女性だった。
ヒョングは和歌山赴任の前に最後に彼女と会った時のことを思い出していた。「しばらく会えないな」「…いつ戻って来るの?」「まあ、2〜3年すれば戻ってくるよ」ミョンスンが訴えるような目でヒョングに尋ねる。「どうしても行くの?」そう言いながら、ミョンスンはヒョングの目をストレートに見つめた。「行かないわけにはいかないんだ」「そう…」
彼女の目は潤んでいた。「たった2年の辛抱だよ。夏休みには帰ってくるから会えるじゃん…もう泣くなよ」と言ってハンカチを彼女に渡した。「ゴメンね。せっかくの門出に水を差しちゃったね。大丈夫、もう泣かないから」とミョンスンは微笑んだが、その無理なほほえみがヒョングの胸を締め付けたのだった。
「先生、何を物思いにふけってるんですか?」 チョンファが意味ありげに笑った。「何でもないよ」ヒョングは心の中を見透かされたようで慌てて話題を変えた。「チョンファ先生はいつも弁当を持ってくるの?」「はい、寄宿舎に先生たちがいてはるし、もし残っても家には兄弟が多いので…」と片付けながら話した。
「ふ〜ん、偉いな〜。そう言うチョンファ先生こそ彼氏はいないの?」「ただ今彼氏募集中で〜す」「もったいないよな。俺、立候補しようかな?」「ダメです。彼女のいる人はお断りや」と言いながら半ばにらむようにヒョングの顔を見た。ヒョングは「いや…冗談だよ…」と言いながらその場を離れたが、チョンファのカンの鋭さに内心驚いていた。
(彼女がいるってなんで分かったのかな?)女の直感とは甚だ恐ろしいものである。
女の直感ね。
ほとんど当たってますよ。
色恋に関しては特にね。😊