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オモニとの思い出

俺にはオモニからかけられた終生忘れられない言葉がある。

大学を出ていざ大海に飛び出さんとした頃、勧められたその場所は希望がなく、自分の青春を捧げるに値しないと感じた俺は、周りに勧められた全てを頑なに固辞し、東北の実家へ帰る道を選んだ。

実家に戻った俺は、そこで汗を流し結婚もし、それなりの小さな生き甲斐と幸せも見つけて生活をしていた。

でも今思うとそんな平穏の中にも、捨ててきたはずの東京への思いが、どこかで埋み火の様にくすぶり続けていたのかもしれない。

30歳を目前に控えた頃、再び東京へ出る機会を前にして決心がつかず躊躇している俺に、オモニは全てを見透かすように、この言葉をかけてくれたんだ。

決めたのなら行ってもいいんだよ。
怖がらず…
失敗してもいつでも戻って来れるんだから…
オモニがいるんだから…

踏ん切りの悪い俺を叱咤し、でも焚き付ける訳でもなく…
心配の多い前途を思い、止めろと押さえつける訳でもなく…

ただ俺を信じて、そっと変わらぬ愛情と、寄り添いを示してくれただけで、俺は気が軽くなり、スーっと一歩前に踏み出せた。

それから30余年。
オモニは大きな震災があった時まで1人でずーっと住んでいた。1人では広すぎるあの家に…

オモニは終生、俺の戻れる拠り所を残しておいてくれたんだと思う。いや、オモニその人そのものが、俺の戻れる拠り所だったのかもしれない。

オモニ…。9月7日旅立ちました。

※写真はすべてイメージです。

1 COMMENT

匿名と言う名の匿名

胸が締め付けられるお話です。
私も同じ様な境遇で、私のオモニもこちらに来る時、笑って送り出してくれました。
今はアボジも弟も亡くなった広い家で一人で暮らしています。
寂しいと思ってもおくびにも出しません。
やはり投稿者さんのオモニも、どのオモニも我が子を愛して止まないんでしょう。
今では人の親になって孫の顔を見る様になった我々もアボジ、オモニから見るといつまでも子供なんですね。
その愛情に応えようと日々頑張ってる次第です。

最後に…
オモニのご冥福をお祈りします。

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