細々とした仕事はあるが、新規の契約がなかなか決まらない。冬の間に大掛かりな内装工事がひとつでも欲しいと、ジンスは名刺をあさっていた。ついでに古くて不要な名刺や、夜の街でもらったモノを破り捨てる。
1枚の名刺に目が留まる事もある。その度に名刺の主を思い浮かべたり、その人と絡んだ出来事を懐かしんでしまうから手が止まってしまう。友人の名刺も捨てられない。
ピンポンとチャイムがなると同時にドアが開いた。
「物件見に近くまできたから寄ったよ。昼飯まだだろ?」と言いながら、장호が入ってきた。彼はほっかほっか亭の袋を机の上に置く。中にはステーキ弁当が入っていたのでご馳走にありついた。ジンスはお礼の代わりに、장호の<無断外泊事件>などをあげつらい皮肉混じりの冗談を浴びせ続ける。
心なしか장호の表情が暗くなり「ナナは韓国に帰ったよ。いつ戻るかはわからないと言ってたしな」としんみりと語りだす。ジンスは「クールダウンするにはいい機会じゃん」と諭してみたり。その時、彼の箸を持つ手に巻かれているモノに気づく。「お前、それなに?」と聞くと「これっ、幸運を呼ぶブレスレットだよ。ナナが二人の絆の意味でつけて欲しいと持ってきたから貰ったよ。5万円以上する逸品らしいよ。只じゃ悪いから往復の航空券代とか払ってやったけどな」と自慢げに言う。
その腕輪はどう見ても大久保の<○○의 집>で見たモノと同じ品だった。ジンスは(멍청한 새끼)と思うと同時に笑いだした。장호がキョトンとしてるので、ミミとの出来事を詳しく話してやった。彼の形相がみるみる険しくなり「あの女、だましやがって、腹立つ〜っ!」と激昂する。ナナには8万円を渡したそうだ。ジンスは「いい思いしたんだし、割高な授業料だと思えよ」とたしなめたが、笑いは止まらない。
イイ仲の寸前でつまずいたジンスと、イイ仲の代償を払った장호は、所詮目くそ鼻くそでしかない。色恋に関して、学習能力に欠けている点でも二人は同類なのだ。장호は悔しさを噛み締めながら、しばらく黙っていた。
「まっ、こんなもんだろ。ところで同窓会の話しは知ってるよな。강현주とは今でも連絡しあってるのか?」と聞くので「まあね」と答えた。「ちっ、お前はイイよな。腹いせに、みんなに言いふらしちゃう?なんちゃって、今後の脅迫ネタになるから大事にしまっておくよ。ちなみにメシおごる約束は、この弁当でチャラね」と言い残して事務所を出ていった。
その後ろ姿は猫背気味で、哀愁を帯びていた。ジンスはそれがまた可笑しくて一人ケタケタ笑っていた。他人の不幸は蜜の味かと呟きながら、また名刺とにらめっこする…
続く
美味しい話には裏があるWW
私も経験上、アガシとの付き合いでは「あるある」の話です。
私は幸い?(笑)そこまで行きませんでしたが、ハマってしまった同僚も居ましたね。
もうこの年になると、さすがにそう言う脂っこい話はありませんが💦
読者さんの中にも胸に刺さる経験をした方もいるんじゃないかな?笑
さて、この後の展開も楽しみになりますね♪