ジンスが新たな営業作戦を練っている時、事務所の電話が鳴る。最近は携帯の発着信ばかりなので、ジンスはその音に驚きながら受話器をとった。
「もしもし、ジンスだよね?」と女性の声。
「ハイっ、そうですが」と応じると「アタシ、선미よ。アンタの携帯番号知らなくて、昔の名刺探したらあったのよ。会社の電話番号が変わってなくてよかったぁ。元気にしてる?」と親しげに話しだす。同じ学部の一学年上の누나からだが、通話するのは久々だ。
선미は生命保険会社の社員で、ジンスも朝銀時代に彼女が扱う保険に加入している。最後に会ったのはこの仕事について間もない頃なので、声を聞くのもそれ以来となる。通話では、まずお互いの近況を伝えあった。
彼女はバブル崩壊後、顧客の獲得に苦しんだが、裾野を日本で商売をする韓国人にも広げ、どうにかやって来たとの事だ。たくましい姉さんだ。ジンスは、営業に終わらず、加入者の公私にわたる相談にも真摯に向き合う彼女の仕事ぶりに思い至る。
彼女が「話変えるけど、アンタ、고정선って知ってるよね」と聞くのでジンスはすぐに反応できなかった。「アンタが年末に助けた子よ。彼女は私の顧客で、結構親しいの。昨日会ったらさぁ、東京駅の話しをしながらアンタの名前を出すから、もうビックリよ」と続ける。
ジンスが「姉さんの知り合いだったとは驚きですね」と言うと彼女は「そうよ。정선はどうしてもお礼がしたいんだって。アタシが조ジンスなら後輩かもよと言ったら、知人なら何とか会えるようにしてと頼まれちゃってね。一度会ってあげて」と話しを区切った。
ジンスは「なんか不思議な縁ですね。でも済んだ事だし」と言い返すと「彼女は新宿で美容院を兼ねたエステサロンをやってるけど、열심히 살고 있는 いい子だよ。おまけに綺麗だし。アタシもアンタの顔しばらく見てないから、明日の夜でも3人でご飯しようよ」と誘い、ジンスのOKを聞いてから電話をきった。(どこで会うのか言い忘れてる。姉さんらしさは健在だね。おまけに声にバイタリティーがみなぎってるじゃん)とジンスは呆れながらも感心している。
선미の顧客はあらゆる業態に及んでるし、異業種間をジョイントするのも彼女の得意技だから、色んな話しを聞けるだろう。何らかのビジネスチャンスを掴めるかも知れない。たまには違った気分で食事するのも悪くないと、ジンスは想う。でも고정선の姿形は思い出せない。また事務所の電話が鳴るので受話器を取った。
「ごめんごめん、場所と時間言ってなかった。明日午後6時に新宿の伊勢丹の前で会おうよ。それからジンスの携帯番号教えて」と言うので伝えたら「折返し携帯鳴らすからアタシの番号を保存してね」と通話終了。ほどなく携帯にワンギリ着信があったので、ジンスは番号を登録した…
続く