1本の樹にもー新米教師奮闘記⑧

ヒョングの学校には全国的にも珍しくサッカー部がない。生徒が少なすぎて11人のメンバーをそろえることができないからである。その代わりというのもなんだが、数年前に少ない人数でできるバレーボール部を創立した。そして、なんと創立2年目にしてウリハッキョの全国優勝を果たし、2連覇という快挙まで成し遂げた。

中級部の男子を全員集めても10人ほどしかいない田舎の小さな学校がである。その伝統を引き継いで今でもバレー部は、特に今年は粒が揃っているとのことである。女子も強い。関西地方のウリハッキョでは名の通った強豪校らしい。指導教員は男子バレー部はチソン先生、女子は教務主任が担当していた。

ある土曜日の午後、教員室でいつものように授業の準備をしているヒョングに教務主任が言った「ヒョング先生、今晩うちにご飯食べにおいで。チソン先生も来るさかいにな」「ありがとうございます」

教務主任は若手の先生をちょくちょく家に呼んでメシをご馳走してくれる。高校時代は空手部で番長だったというウワサだ。背は高くはないがガッチリとした体格で、面倒見のいい親分肌の人柄が全身からにじみ出ている。情に厚いが仕事には厳しい人だ。

その晩、ヒョングは教務主任の家で久しぶりの家庭料理を口にした(やっぱり手料理はうまいなー)「遠慮せんとたくさん食べや!」教務主任のその言葉に甘えてヒョングは次から次へと料理を口に運ぶ。ビールの空き瓶がどんどん増えていった。

ヒョングがほろ酔いになり腹も満たされて箸が止まった頃を見計らって教務主任が話を切り出した。「ところで、ヒョング先生はバレーの経験はあるか?」「ありません」「どや、女子バレーの補助せぇへんか?」「え?」教務主任はヒョングの目をジッと見据えながら続けた。「今年はな、ほんまに優勝が狙えそうやねん。女子では初めてや。学校的にもそうやけど、子供たちに大きな喜びをあげられるんやで。一緒にやってみいひんか?」

教務主任も酔ってはいたが、その目は真剣だった。「明日、近くの日本学校と試合があるから見においで。答えはその後に聞くわ」

寮への帰り道、千鳥足で歩くヒョングの隣で、今度はチソン先生が誘ってきた。「ヒョング先生、1回やってみぃな。ええ経験になるで。子供らの違う面も見えてくるしな」「はぁ…」

ヒョングは酔いを覚ますように頭の中で考えていた。(素人の俺が入ったら、かえって邪魔になるのでは?…しかし、ここの先生たちはみんな熱いな~。まあ、明日の試合を見てから考えようっと)

1 COMMENT

元バレーボール部

私は中学の時、バレーボール部に所属していたので、この話には興味津々です。
형구선생님、どうするの?
さぁ、明日の試合はどうなるのでじょう~? か。
楽しみです。
 

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