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ジンスーMy love ①

彼の名はジンス(조진수)。1959年生まれ。数日後に21世紀を迎える頃の東京駅の八重洲中央口。間もなく午後4時になる。師走も大詰めの喧騒の中、ジンスは改札辺りをせわしなく行ったり来たりしていた。

パープルのスーツにベージュ色のオーバーコートを羽織った容姿はかなりキマっている。だが、何かソワソワしてるような彼の動作が大人の装いにどこか幼稚さを漂わせていた。待ち合わせの時間までは残り数分。はやる気持ちのせいで、その数分がじれったく感じられるジンス。

改札から出てくる彼女を正面で迎える?いや、柱の陰に隠れてウロチョロ捜させるのも面白いかな?そして後ろから肩をトントンなんてねと、妄想は止まらない。その時、目の前にひとりの女性が現れ興奮気味に語りかけてきた。
「あの、しゅみません。もしかして한국분이세요?」

ジンスは「조선사람だよ」と答えたい衝動を抑え「はい、예예 교포입니다.」と答えた。(俺は韓国顔かい!)とツッコミたくなる。大きなスーツケースを引いている30代半ば位の細身の女性。化粧気はなく顔が汗ばんでいたが、なかなかの美形だ。彼女は「당돌해서 이상하게 생각하시겠지만 좀 도와주세요」と必死な形相で語を継いだ。気圧された形でジンスは仕方なく彼女の話を聞いた。


…エステサロンを経営していて年末から韓国に帰るんだけど、今朝パートナーに売上金を持ち逃げされた。航空チケットはあるけど成田まで行く費用がない。身分証を見せるし、コピーしてもかまわないから成田までの交通費を貸してもらえないか…との事。ジンスがその話を信じる訳もないし助ける理由もない。でも女性は哀願顔でヘルプ・ミーの体だ。

ジンスは(もうすぐ彼女が着くからこの場面を終わらせなければ)とポケットから1万円札を取り出して「成田までなら충분할거요」と言いながら女性に手渡した。
「감사합니다. 이 담에 일본 오면 꼭 갚을게요. 성함을 알려주세요.그리고 전화번호 찍어주시고.」

面倒くさいから言われるままにしてやった。女性は何度も頭を下げ、足早に改札の中へ去っていった。すれ違うように待ち人が現れたのを遠目に認める。過去の時間の共有者と変な初対面の二人の女性の交差は単なる偶然なのかとジンスは魅入るようにその光景を眺めている。

だが近づいて来る彼女の姿が大きくなるにつれ歓迎モードへと気持ちが切り替わった。彼女は小ぶりのスーツケースを引きながら改札を通った。ジンスはサッと柱の陰に身を隠した。十数年ぶりの再会だし、二人きりで会うのは初めてなので妙に緊張する…

        続く

2 COMMENTS

編集者。

ありがとうございます。全30話の予定です。多分。
本日より毎日掲載しますので愛読よろしくお願いします。

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