ジンスとミミは大久保駅前の喫茶店で向き合って座っていた。この日、ミミを見てジンスが最初に感じたのは、夜とは違うナチュラルメイクだった。(やっぱり可愛いい)と思いながら、今後の彼女との展開が楽しみでワクワクしていた。
ミミはおもむろに「お茶したら一緒に우리의 집에 가자」と言いだしたのでジンスのあらゆる妄想が活発化する。彼は心の中でラッキーと連呼していた。ミミが「私の새 출발기념으로 뭐 하나 사줬으면 좋겠다」とおもねるように言うので、彼は快諾してしまう。
歩いている時、ジンスは(우리 집じゃなくて우리의 집って言ったよな…)とその単語が気になっていた。彼は気分を変えようと「もうミミじゃないよね。これからは何て呼ぶ?」と聞くと予想だにしない答えが返ってきた。
「앞으로 안젤라라 불러줘.」
ジンスは「まさか、名前の前にシスターが付くとか?」と軽口で返したが「오빠 머리회전 좋네.하지만 그냥 안젤라라고 불러」ときたから仰天する。誰がどんな神様を信じようがその人の自由だし、それをとやかく言うつもりはない。ジンスは<世界の4大宗教>と題した本や、聖書に係わる物語や小説も読んだ事がある。信者に対しても、それなりの理解を持ち合わせているつもりだ。
彼は「クリスチャンなの?」とまた質問をしたが、彼女は微笑みを返すばかりだった。ミミが何らかの信者だとわかっても、(いい仲になれる)とジンスは信じて疑わない。彼は大久保の裏通りの一画にある小さなプレハブの平屋に案内された。<○○의 집>と書かれた大きな表札が入口にかけてある。ジンスは立ち止まったが、ミミが手招きをやめないので、覗くくらいならいいかなと妥協した。
狭い空間には宗教グッズとおぼしき品々が展示されていて、その一つ一つに値札がついていた。奥にはもう一つ部屋があって、ドアに<礼拝의 마당>と書かれていた。
ジンスが顔をしかめると、ミミは「오빠 運気가 좋으라고 저기 ブレスレット 골랐는데」と言ってくる。陳腐なデザイン玩具にしか見えないが、“5万円”となっている。買えない金額ではないが、彼は「다음에 하자」とはぐらかした。上壁に掲げられている看板の文字「믿음과 헌신에 신의 총애가 있습니다」を見てジンスは完全に理解した。カルトかよ、売りつけ商法までしやがって!
ミミは高貴な宣教師や伝道師などではなく、カルトの尖兵でしかなかったのだ。彼は怒りを抑えながら外に出る。ミミが追いすがってきたが毅然と振り払う。驚愕したのは彼を見るミミの表情が憐れみに満ちていた事だ。
ジンスは背筋が寒くなりながら早足でその場を去った。そして、どういう訳か「ふざけやがって。주체사상 ナメんなよ!」と吐き捨てた。彼は携帯を取り出し保存されているミミの番号を怒りを込めて力いっぱい消去した…
続く