「マンハッタン･キス」竹内まりや

30代で初めてフルマラソンに同僚Ａと二人で出た。マラソン前日、マラソンに参加しない同僚Ｂが、スタミナ付けてくれと夕ご飯にスパゲッティを思う存分ごちそうしてくれた。Ｂは随分と同僚思いのやさしい人だ、と思った。マラソンが終わり暫くたったある日、Ｂのやさしさを他の者に話したところ、私とＡのどちらが早くゴールするかを皆でかけていて、Ｂは私にかけていたのだと大笑いした。私も大笑いした。愉快だった。

40代でその職場を去ることとなった。送別会の三次会を同僚Ｃが馴染みの場末の小汚い居酒屋で開いてくれた。午前をまわってお開きになり、タクシーで自宅に戻ろうとすると、同僚Ｄが60歳を超えたであろう女性と一緒に帰れとしきりに勧める。しつこく勧めるが、嫌な感じがしたので半ば強引に一人でタクシーに乗ってさっさと帰った。
明くる日Ｃがそっと私に近づいて来て、Ｄと60歳超の女性は不倫関係にあり、Ｄは私にその女性をあてがおうとしていたことを語った。その女性はその店では有名で、数名と不倫関係にあったらしい。人の性が哀しい。その後のＣの言葉が振るっていた。「60歳を紹介するとは失礼な奴だよなぁ、紹介するなら26歳だよなぁ」。そっちかよ（笑）。