初夏のうららかさを感じよう

3年12班の愉快な面々 16

電車が田端駅に近づいて来た。
奴等は降りる準備をし始めた。

Gチ達は先ず1人を先に降ろして、奴等の前を歩くようにして、残りの3人は後から付いて行くことにした。

1人相手なら間違いなく奴等は逃げる事なく、喧嘩を売って来るだろう。そして近くの駐車場までおびき寄せて、そこで決着をつけようとした。
1人の役は、地元で地理に明るいホGが担当した。

ホームに滑り込んだ電車は静かに停車した。
乗降客で車内はごった返した。
これ見よがしにホGが奴等の前を横切ると、案の定奴等は後を追って来た。
作戦は上手くいった様だ。
Gチ達は歩く速度を上げた。

改札口が近づくとジャバラの1人が「おい、朝高!」と威圧的な声をかけた。
ホGは振り向き、慌てた表情で逃げる様に走り出した。
「待てコラ〜!」と5人が追い掛ける。
そのちょっと後ろをGチ達3人が追い掛ける。
ホGは目的の駐車場に程なく到着して後ろを振り向いた。

その顔には怒りが溢れている。
「コラ、逃げてんじゃねぇよ、朝鮮人が〜!」とわめく奴等に「テメェらか?俺の大切な友達を、5人がかりでフクロにしてくれた奴は…あ?コラ」
子供の頃から喧嘩に明け暮れて来たホGのオーラは凄かった。
奴等はちょっとたじろいだが、1人にビビる事もない。
「なんだ?お前あいつの友達か?ははは。お前も同じ様にボコボコにしてやるよ!」リーダー格っぽい奴が叫んだ。

「なんだ、1人相手だと強いな!え?国◯館さんよ!」
後ろから声が聞こえた。

5人がびっくりして振り向くと3つの人影が立っている。
「な、なんだテメェら、騙しやがったな!きたねぇぞ!」
「おいおい、1対5でフクロにした奴等が言うセリフじゃないだろ?それにお前らの方が人数は多いじゃねぇか」とGチ。
「さぁて、どうやってこいつら泣かせる?」とホGが近づいて行く。

相手は身構えた。
Gチは「安心しろ、一人一人タイマンでやってやる。お前らが決めろ。誰とやるんだ?」と言った。
リーダー格の男は4人を見つめホGを指差した。

ホGは目力を入れ相手を睨みつけると「テメェ〜俺だと勝てると思ったのか?このやろう!」と前に出て行き、周りにいる奴等に向かって「どけ!」と一喝すると「かかって来い、この野郎!」とリーダー格の男に言った。

「なめるなこの野郎!」と殴りかかって来た相手の拳を紙一重でかわすと、渾身の一撃をコメカミに食らわした。
カウンター気味に入った拳は「ゴッ!」と鈍い音が鳴った。

リーダー格は「ガッ」と声をあげて倒れた。そして起き上がらなかった。
一発、たったの一発だった。

「馬鹿野郎が、朝高なめんなよ!次は誰だ?」と残りの4人に向かって叫んだ。

自分らの中で1番強い奴が、まさかたったの一発で沈むとは思ってもみなかった4人は、完全に戦意を喪失した。
すると 埼玉出身のCホが「お前ら俺の地元だからよ、俺が相手しなくちゃダメだろ?あ?おいお前!何回か顔見た事あるよな。かかって来い。」と1人を指差して静かに言った。
こう言う時の静かな語り口は、ひときわ自信ありげに、また不気味に感じた。

指された男は下を向いて動かない。
「お前電車の中で、俺の友達の腹を蹴り飛ばしたとか言って笑ってたな。お?ちゃんと返してやるからな、この野郎!ほら、かかって来いよ!」
相手は小刻みに震えながら下を向いたまま動かない、いや、動けなかった。

(まさか朝高がこんなに強いなんて…脅せばビビって何も出来ないって言ってたのに…先輩達の話と全然違うじゃねぇか…ヤベェなぁ…)
完全に気が折れた奴等は蒼い顔をして目を泳がせている。

Cホが「コラ、ハッキリしろ!どうすんだよ!」と叫ぶと4人は消え入る様な細い声で「すみませんでした」と言った。
「あ?聞こえねぇよ!」
Cホが叫ぶと「どうもすみませんでした!」と大きな声で謝った。CホはGチの顔を見た。Gチは暫く考えたがホGと Cホの顔を見て頷いた。そしてこう言った。

「てめぇら、よく聞けよ。本当はお前ら全員ボコボコにするところだけどな、お前らがフクロにした奴が、それでもお前らが謝ったら許してやってくれと言うから、この位で終わってやるんだ。いいかお前ら…」Gチはここでひと息おいた。
そして…

「朝高なめんなよ!」

誇りに満ちた勝利宣言だった。いつにも増して胸のサンペンが輝いて見えた。

「俺が一番強いんじゃないぞ!俺より強い奴はゴロゴロいるからな。次何かあったらそいつら連れて来るぞ!」とホGがニヤけながら言った。
「 ちょ、ちょっと待てよ!終わり?俺…俺はまだ何もやってないぞ!」と今まで一番いきり立っていたM鉄が騒ぎ出した。

「いいから、終わったよ。」とうなだれている4人の横をすり抜けながらGチは言った。

先生が言った「友達として、男として、朝高生として、心の奥にある一番大切な物」はホGのたった一発のパンチで守られた。だがそれは、力を見せつけた事で守られたのだろうか?
力で相手を屈伏させるのではなく、許す事で真の強さを見せつけた事ではないだろうか?

一年前までのGチ始めここの面々ならおそらく、気持ちの赴くまま全員をボコボコにしていただろう。そこには憎しみしか残らず暴力の連鎖が延々と続いていただろう。

相手を許せる心を持つ、ここにGチ達の成長を見る事が出来た。
4人は薄暗くなった道を駅に向かって歩いた。
心には爽やかな風が吹いていた。
ただ1人を除いては…
「俺…何もやってないのに…」
「いいんだよ!」

まだしつこく続かせてもらいます。(^^;)

1 COMMENT

喧嘩両成敗!

ほぉ~ しっかりやり返しましたね~👍
ここでまた一曲♬なめたらあかん~なめたらあかん~♬
どうしても歌いたくなっちゃうんだよね~😁
しかし、殴ったり殴られたり~💦 もう顔も腹も拳も、あちこち痛いよね💦

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