春のうららかさを感じよう

1本の樹にもー新米教師奮闘記㉓

朝の9時!運動会は定時に始まった。どこの学校もそうだが運動会は地域の同胞が一番集まる行事である。大勢の同胞たちが見守る中、共和国国旗を先頭にした入場行進で運動会の幕が上がった。初めて教師として参加するヒョングは心地よい緊張感に包まれた。

ヒョングが受け持ったのは一番忙しい準備係。進行表に沿って中学の男子と朝青に指示を出す。徒競走、障害物競走、人物探し、同胞競技、玉入れ、綱引きなど全競技の準備を受け持つ。「ほら、そこ!持ち上げろ!」「あ、それは向こう」「ほら、ここを持て」とヒョングは声がかれるほどの大声で指示を出した。(こいつらと一緒に汗を流すのも悪くないな)ヒョングは軽い充実感に浸っていた。 

午前の競技が終わって昼食時間になると「ソンセンニ〜ム、こっちおいでや〜」とあちこちから声がかかる。寄宿舎の先生たちは人気者なのである。ヒョングにとっては驚きの光景だった。「グンサン先生、凄いっすね。」「毎年のこっちゃ。大切なのはひとつの所に落ち着かないことやで」と言いながらグンサン先生とヒョングは学父母たちの席を回りながらご馳走に舌鼓を打った。

「ソンセンニム、歌でもうたい。ビール出すわ」「え〜?本当ですか?じゃあ頑張っちゃおっかな~?でも、ビールは終わってか・ら・ね」とウインクしてヒョングは歌をうたいだした。あちこちから「チョッター!」とかけ声がかかる。ヒョングの調子は絶好調に達していた。

午後の競技が始まった。トランペットのファンファーレが高らかに鳴り響くと全校生徒によるマスゲームの開始だ。ヒョングは学生に混じって「ヤー!」と声を上げて走り、組立体操最後列では初級生を担いだ。久しぶりの感覚…上手く行った時の喜びは学生でなくともうれしいものだ。「4重塔」の土台はやはり大変だった。高さを合わせるので中腰になる。揺れる…「堪えろ!」「イェ!」その声に揺れも収まり「4重塔」も無事1回で完成した。

いよいよクライマックスの「万豊年」だ。音楽(東京中高の演奏録音)が鳴り始めると可愛い幼稚園児が踊り出し父母たちが一斉にシャッターと押す。中学生が踊りサンモが回る。初級生が飛び跳ねる。長いサンモが登場し宙に円を描いて運動会は最高潮に達した。チソン先生と数人の学生がバク転を披露する。

音楽が終わり出演者全員が一斉に「チョッタ―!」のかけ声を挙げる。喝采のうちに「万豊年」が終了し運動会は無事に幕を下ろした。