春のうららかさを感じよう

1本の樹にもー新米教師奮闘記㉗

練習が始まった。学生たちは放課後に学年ごと、セクションごとに分かれて公演練習に励んでいた。歌や舞踊などにあまり縁のない体育会系の学生たちは、この時ばかりは大きい体を小さくして練習に参加していた。

ヒョングの担当は朗読だった。いうならば“公演の進行係”である。芸術公演でもっとも重要な役割なのだが、ここでもやはり“文学部出身”というレッテルが効いているらしい。(文学部出たからって、誰でも書いたりしゃべったりできると思ったら大間違いだよ)ヒョングは朗読などの“話術”と呼ばれる分野が苦手なのである。

ヒョングをはじめ教員たちは、練習、打ち合わせ、指導、授業と目の回る忙しさだった。約1ヶ月の練習を経てようやく通し稽古を行える水準となった。ヒョングは舞台の袖で朗読班の出番を確認しながら練習を見守る。だが、やはり担任クラスの学生たちが気になっていた。

(あいつら、ちゃんと歌ってんのかよ~)舞台上で恥ずかしそうに歌う女子バレー部員たちに声をかける「もっと口を開けて大声出せ!」エミョンが舞台から袖にいるヒョングをにらむ。ミョンジャに至ってはヒョングの声に顔を背けている。(なんだ? あいつら、どうしたんだ?)ヒョングは2人の反応になぜか胸に不安を覚えた。

公演は近くの講堂を借りて行われた。一世の方々を始め父母や卒業生、日本の人たちも大勢集まった。ヒョングはミキサー室でモニターを見つめる。舞台の幕が上がった。10年前に新校舎が完成するまでの同胞たちの涙ぐましい苦労、子供たちを思う深い愛情、血潮で完成した鉄筋3階の校舎を見上げる同胞たちの喜びを舞台全般で描き出した。

観客たちは笑い、涙し、惜しみない拍手を送っている。ミキサー室から見下ろすこの光景にヒョングの目にも涙がにじんでいた。

1 COMMENT

公演の成功はとても喜ばしいけど、ミョンジャの事が気になってどうしようもないのですが。
ソンセンニム早く気付いて対処して欲しいな。

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