1本の樹にもー新米教師奮闘記③

ヒョングらを乗せた車は校門をくぐり抜けて奥の駐車場に止まった。郊外の国道からちょっと奥に入った住宅街に彼らの職場となる学校がある。3階建ての鉄筋校舎と、運動場を挟んだ向こう側に、同じく3階建ての寄宿舎がそびえている。

サッカーグラウンドの半分ぐらいしかない運動場は花壇に囲まれ、砂場や鉄棒、シーソー等の遊具が傍らに備えられている。年度末ということで、校内には机や椅子、体育道具、粗大ゴミ等が乱雑に置かれていた。

ヒョングとチョンファ、ジョンスンは1階の教員室に通された。教員室は机で中級部と初級部に分けられていて壁にはロッカーがズラリと並んでいる。ヒョングたちを先輩教師たちが温かい拍手で迎えてくれた。自己紹介が終わると教師たちは中断していた作業に取りかかる。「さぁ、先生たちは仕事を続けて。新任の先生は…校内の見学をしましょう。チョ先生、案内したって」

教員室を出るとチョンファとジョンスンがチョ先生に声をかけた。「オンニ!」「チョンファ、ジョンスン、환영!よう来たね」新米女教師たちがキャシャなチョ先生を囲んでキャッキャとはしゃぐ。チョ先生は、大阪朝高の二人の先輩で大学の同じ学部の先輩でもあるらしい。久々の再会だったのだ。ヒョングはこの光景を後ろで眺めてながら、初めての職場に知り合いがいることを少し羨ましく感じていた。

最初に案内されたのは初1の教室だった。低学年の教室らしくかわいい絵や動物の写真が窓の外から見えている。だが、教室に入った3人は自分たちの目を疑った。並べられた机が5つしかないのである。(きっと、まだ机を入れてないんだろう)ヒョングら新人教師3人はそう思いながら次の教室に行った。

一通り教室を見終わったヒョングがチョ先生に尋ねる。「先生、あの…学生数は何人ぐらいですか?」チョ先生は笑いながら「気になるやろ? 幼稚園から中学まで合わせても100人おらんねん。全部で80人ぐらいかな?」「ショックやろうけど、これが現実や。でもな、数は少ないけど、うちらはこの学校に誇りを持ってんねん」とチョ先生が目を輝かせながら学校のすばらしさを語ってくれた。

この学校は全国で年に一度開催される学科競演試験で毎年上位に入り、大阪朝高の入試でも10年連続で1位を獲得している。部活も活発で、中学のバレー部が中央体育祝典で何度も優勝していることなどをチョ先生は自慢げに話した。何よりも学生たちが素直でいい子ばかりだと、チョ先生はうれしそうに語った。

「だから、みんなこの学校が大好きやねん」チョ先生のこの言葉がヒョングには不思議に思えた。(自分の出身校でもない学校をここまで愛せるものなのか?2~3年で帰るつもりの俺には無理な話だな)

学校見学を終えたヒョングは、テホの手を借りて寄宿舎の部屋で荷を解いた。東京出身の彼はアパートではなく、寄宿舎で学生たちと寝食を共にすることになった。1か月ほど前まで大学で寮生活をしていたので寄宿舎の暮らしには慣れているはずだったが、新しい環境で教師という立場で生活すると思うと少しワクワクだった。

その晩、寄宿舎でささやかな歓迎会が開かれた。食堂での焼き肉パーティー。校長をはじめ教師や学校関係者が3人の新人教師を歓迎してくれた。唯一の新人男子であるヒョングは、儀式のようにしこたま飲まされた。いろんな人たちがひっきりなしに杯を注ぎにくる。注がれては飲み干しの繰り返しで一気に緊張がほぐれ、とうとう酔いつぶれてしまった。初日からこんな調子で、果たしてヒョングはやって行けるのだろうか。

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応援団のひとり

自分の若い頃と照らし合わせながら
物語の世界を楽しんでいます。
それにバージョンアップしたイラストさんの一枚の挿し絵が心にジーンと響きます。
タイトルロゴの녀학생にもマスク😷(笑)
編集部の皆さんの繊細さの現れですね。
心から応援しています。

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