私の一番好きな韓国映画『離れの客とお母さん』

遠い記憶なので薄れてしまってあやふやなのですが、多分私が20代の頃だったと思います。NHK教育テレビで”世界の名作”のようなシリーズで映画を放映していて、偶然にも韓国映画『離れの客とお母さん(사랑방 손님과 어머니)』(1961年)を観てしまいました。

観てしまいましたと書いたのは、それまで韓国映画についてはあまり知らなかったし、韓国については周りからの情報で負のイメージしかなかったからです。さらに監督と主演女優が、かのシン・サンオク(申相玉)とチェ・ウニ(崔銀姫)夫妻だった。この二人について詳しく知りたい方は書籍「闇からの谺」をどうぞ。サスペンスとしても面白い。

地方の村を舞台にしながらショパンの曲が随所で流れるというアンバランスがなんともいえない滋味と効果を出していて、それに愛らしい6歳の옥희のナレーションで、一気にこの映画の世界に引き込まれます。

ストーリー展開や演出も本当に素晴らしい。離れの客に心引かれる未亡人である主人公の葛藤と、卵売りとお手伝いの恋の対比。友人が経営する美容院を訪れて、髪を切ろうか切るまいか悩む主人公の物語の暗示。ピアノを上手く使った状況描写。手紙の場面、井戸の場面での切なさとともに際立つ俳優たちの巧みさ。

儒教思想の呪縛が色濃く残っている韓国の村社会での、個人の感情と社会因習の相剋が何とも切なく哀しい物語となっています。

また、私はこの映画を思い出す度に、同級生を含めた私たちの同世代が、자신의부모、시아버지、시어머니の介護を苦労しながら最後まで全うしていることに胸が熱くなります。 儒教思想が少ないながら知らずのうちに刷り込まれている私たち同世代と比べて、個人が優先されている今の若い人達は、はたして自分や義理の父母の介護を最後まで自ら全うするのであろうか。そんな疑問も頭を掠めます。 韓国ではこの原作を中高校生が読むらしいです。

翻訳からの一節(옥희視点)を引用します。
「父がいない私としては、おじさんがお父さんになってくれればいい、という気持ちを持つようになる。ある日、私はおじさんに、いきなり、この気持ちを話したところ、おじさんは、わけもなく顔を赤らめて「それはだめだ」と言い、その声は震えていた。また、お母さんを喜ばせてあげようと、幼稚園からこっそりと花を抜いてきて、お母さんには、おじさんがお母さんに持っていくように言ったと伝えた。するとその時、お母さんの顔もまた、赤くなった。」

胸が押されてぐっときます。ませた子供がなかなかやってくれるではないですか(笑)。この映画、日本では劇場未公開です。よくぞNHKは字幕を付けて放映してくれたものです。

『離れの客とお母さん(사랑방 손님과 어머니)』 字幕はありませんが充分聞き取れると思います。

(離れていない客)

2 COMMENTS

エロい期待

사랑방 손님과 어머니、観ました。タイトルは雰囲気的に何か少しエロっぽい感じがするけどそれは私だけ??(笑)でも実は全然エロくなくて、むしろ純文学なのでした。(少し残念⤵⤵)

離れていない客

エロい期待 さん。エロくなくて済みません。と私が謝ってもしょうが無いんだけれど(笑)。
少し残念と言いながら最後まで観てしまったとは、純文学がお好きですね。
ハッピーエンドの結末のほうが皆幸せになれて良いに決まっている。それなのに、何故人間は苦悩する結末に心動かされるのだろう。
きっと、安易に入手できるものは少なくそれらは価値が低く、苦労や苦悩しながら得られたものは喜びが大きく価値が高い、また必ずしも得られるものではないとの経験が心に訴えかけるのかもしれません。
ということで、1961年、白黒、純文学的韓国映画なるこの映画の環境の中に、エロさを想像させる「題名」なる住人がエロい期待さんのもとに来たことで、苦労、苦悩しながらエロさを探し出したが、結局探せなかったとの相剋が、強引に考えるとこの映画の構造と似ているかもしれません(笑)。
私としてはこの映画を観た人が増えて純粋に嬉しいです。

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