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55年前の大事件…北朝鮮に拿捕された「プエブロ号」ー②

朝鮮人民軍に拿捕されるまで

1月21日17時20分、朝鮮人民軍の小型快速の軍艦であるSO-1(駆潜艇)が、プエブロ号から300ヤード(約274メートル)を通過した。翌22日正午には、漁網を積んだ北朝鮮のトロール船2隻が接近。1隻がプエブロ号を1周し、しばらく漂泊してから去って行った。

プエブロ号を強く警戒している、という意思表示を北朝鮮がしてきたのだ。プエブロ号は諜報活動を秘匿するため無線連絡を止められていたが、ブッチャー艦長は連絡をすることを決めた。しかしプエブロ号は、その海域から離れることなく留まり続けた。

そして運命の23日。正午少し前、1隻のSO-1がプエブロ号に接近。

「駆潜艇はすでに総員配置についており、戦闘用ヘルメットを着けた兵たちが、3インチ砲及び2基の37ミリ砲架のそばに立っていた。艦橋からは北朝鮮の士官たちがブッチャーを睨み返していた」(『情報収集艦プエブロ号』)

SO-1が国籍を問うてきたので、プエブロ号は軍艦旗を掲げた。米国海軍の艦船であることを明らかにしたのだ。

プエブロ号に残る銃撃の跡(2016年8月22日撮影)

すぐに人民軍のP-4(魚雷艇)4隻も到着。さらにミグ21戦闘機2機が飛来し、低空で旋回した。戦ったら、撃沈されるのは明らかだ。もはや、絶体絶命である。

ブッチャー艦長は、その場所から脱出するために艦を動かした。しかし、この船の最高速度は12.5ノット。それに対して駆潜艇は29ノット、魚雷艇は50ノットだった。

13時30分、ついに駆潜艇SO-1と魚雷艇P-4が一斉に射撃を開始。それは何度も繰り返された。ミグ21からは、ロケット弾が発射。艦内では拿捕に備え、機密書類の焼却が始まった。

13時37分、ブッチャー艦長は脱出を断念。プエブロ号は、SO-1の後に従って元山港へ向かう。しかし、到着前に機器の破壊や大量の機密書類の処分を終えるために低速で航行。そして、さらに時間稼ぎをするために停船した。だがそれに対し、SO-1が砲撃を行なったのである。この時に8人が負傷。重傷を負った3人のうちの1人が死亡した。

プエブロ号との戦闘に参加した兵士(2008年6月26日撮影)

14時37分、プエブロ号へSO-1から人民軍将兵が乗り移る。ブッチャー艦長は米軍機による救出を待っていたが、やって来なかった。在日米海軍司令部は、プエブロ号の元山到着までに戦闘機が間に合わないとの判断で断念したのだ。また機密保持のために、元山港に着いたプエブロ号を空爆することを検討したものの実施できなかった。

このようして、プエブロ号の将兵82人が捕虜となり、1人が死亡するという結果になった。

領海侵犯は本当にあったのか

28日に開かれた「国連安全保障理事会」で米国のゴールドバーグ大使は、プエブロ号が北朝鮮によって臨検された位置は北緯39度25分・東経127度56分の公海上だったと主張。

それに対してソ連のモロゾフ大使は、北朝鮮領海へのスパイ船の派遣は主権侵害であり国際法違反だと反論した。北朝鮮が韓国と同時に国連加盟したのは1991年になってから。そのためソ連が代弁したのだ。

プエブロ号事件を解説したリーフレット

北朝鮮は自国の領海を、12カイリ(22.224キロメートル)としていた。米国は、プエブロ号が北朝鮮の領海を侵犯していたかどうか確信が持てなかった。

プエブロ号が人民軍艦艇から逃れようとしていた際、米軍が定めた13カイリを越えていた場合のために、艦内では艦の位置を記した記録紙を破棄している。

「(艦長は)もう1度艦の位置を確認するよう付け加えた。レーダーの1走査で、正午の位置が確認された。ウング島から15.8マイル。スコープ内の地形は、明瞭に海図と一致していた」(『情報収集艦プエブロ号』)

筆者はその「ウング島」の位置をいくつもの地図で調べたものの、特定できなかった。元山湾の入り口にある「ウン島」のことではないかと思われる。

米国は領海侵犯をしていない“証拠”として、何と北朝鮮の無線交信を傍受した内容を明らかにした。ゴールドバーグ国連大使が述べた「北緯39度25分・東経127度56分」という数字はそれによるものだった。

「北朝鮮側の交信が示しているところでは、SO-1は事件当日少なくとも12回にわたり、その位置を司令部に報告していた。正午直前、プエブロ号を発見したときのSO-1の位置は北緯39度25分、東経127度56分で、これはウング島から15.3マイル、元山から25マイルの地点であった」(前掲)

だがこれはプエブロ号の位置ではなく、SO-1のものでしかない。米国は国連安保理に対しても、信憑性に乏しい “証拠”しか出せなかったのである。

アメリカ海軍の報告によるプエブロ号の位置(Wikipediaより)

Wikipedia掲載の地図「アメリカ海軍の報告によるプエブロ号の位置」によると、プエブロ号は領海侵犯していない。だが北朝鮮の無線傍受内容を頼りにしていたような米国が、どのようなデータに基づいて作成したのか不明である。

続く

講談社WEBメディア『現代ビジネス』(2023年1月27日)から

3 COMMENTS

55年前か

何故23日までその場を離れなかったのか。本国の命令だったのでしょうか。だとしたら救援も無いまま拿捕された乗組員達が気の毒な気が…
ここはアメリカの諜報船を拿捕した人民軍を誉めるべきなのかな。領海を侵犯していてもいなくても、警告の段階で立ち去れば良かったのに、と思うのは諜報戦に対して甘い考えかな。奥が深すぎる。💦

なめたらあかんぜよぉ~

ブッチャー船長って、あのブッチャーと関係があるのかな? でぶっちょの~👀
しかし、大胆な行動だねぇ~💦 そうとうなめられてたのかな?💦
その領域まで来たら、もやは確信犯でしょう👀💦
人民軍の勝ち🙌

スパイ船

そりゃあ諜報活動をしているのだから確信犯と言えば確信犯。

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