【投稿】冬空の屋上で食べるうどん

久しぶりに池袋に来た。観たかった映画のチケットを握りしめ池袋駅で降りたのだが、始まるまでに1時間以上も余裕があるので、駅直結の西武池袋本店に吸い込まれる。平日なのにかなりの混雑ぶりに田舎から出てきた私はちょっと焦る。

ちょっと早く池袋に着いたのには理由があり、私はまっすぐ行きたい百貨店の屋上へ直行する。

ここは緑の庭が作ってあったり、ベンチや椅子も置いてあるので、ちょっとした開放区だ。青天井の気持ち良さは、屋上ならではで、フェンス越しに見える風景もスカッとする。

ここ西武池袋本店の屋上には、知る人ぞ知る、でも知らない人は全く知らない魅惑の存在がある。うどん「讃岐 かるかや」だ。

屋上の片隅にぼそっと佇む露天のような店だから、見逃すのも当然なのだが、この店は侮ってはいけない。1968年、つまり西武池袋本店の屋上でずっと今まで営業している名店なのだ。

わざと不揃いに打つ野太いうどん、朝からだしを引いて当日分を仕込むつゆ、いずれも「かるかや」の手製だ。

細いのあり、太いのあり、いまどき珍しい不揃いの手打ちうどん。世間では、とかくツルツルピカピカの一糸乱れる美人さんがもてはやされているが、「かるかや」のうどんは開店当時から、生地を足で踏み、熟成させ、綿棒でのし、包丁でトントン切って作ってきた。

今日は屋上に出て窓口で「きつねうどんください」と注文をした。本当は名作「つけうどん」にしたかったけれど。それ以上に温もりたかった。

お膳を持ち運んで、近場のテーブルに置き、屋上の人々の仲間入りをする。そびえ立つ池袋サンシャインシティを眺めながら、うどんをすする。箸で持ち上げるとずしっと重く、粉の風味がダイレクトに伝わってくる。

「かるかや」のうどんは今でも健在だ。

しかし渋谷の東急百貨店は、1月末で閉店してしまった。全国で相次ぐ百貨店の閉店。西武池袋本店は今後どうなるんだろう。そんな事を思いながら、今日観る映画館へと足を運ぶ。

※投稿記事を一部修正しました。