おかしな娘のオモロイ話(6)ーいとしのエリー

朝大を卒業した後、私はとある病院に入社した。 所属は経理課。
数ヶ月の研修期間、初めに病院窓口の会計を習う。 ここで患者さんの会計を行って入院費用や外来費用を精算する。

会計には、私のほかに日本人が2人。 一番長く勤めている、おつぼねのタカハシさんが私のサポート役についた。
「李と申します。よろしくお願いします!!」
研修期間を終えて、私は会計作業と1日の売上計算が主な業務になった。 そして電話の応対も。

外部の方からはもちろん、内線からもバンバンかかってくる。 プルルル…
電話に出るのも私の仕事。張り切って電話に出る。
私:はい!会計李です。
電話の相手:病棟 4階ナースステーションなんですが、タカハシさんいらっしゃいますか ?
私:少々お待ちください。

ほとんどの電話はタカハシさんが処理してくれる。分からないことは全てタカハシさんに 聞く。
私:はい!会計李です。 …あ、その件はですね、ちょっとお待ちください…(タカハシさんに聞いて解決)…ガチャ
数週間が経ち業務にもすっかり慣れ、私はある程度の電話も自分で対応できるよ うになった。

そんなある日、いつものように電話が鳴った。
プルルル…
私:はい、会計の李です。
電話の相手:栄養科なんですけど、エリーさんはいますか?
私:エリーさん? ? …少々お待ちください。
(ここにエリーさんなんて人いたっけ?)思いながら、タカハシさんに確認。

私の勤める病院には外国人が多く働いている。在日朝鮮人、韓国人はもちろん、<サガン鳥栖>とか<柏レイソル>とか、 まさにどちらが名字でどちらが名前なのか、国籍さえどこなのかさえよく分からない人がたくさんいた。
なんてグローバルな病院なんだろうといつも思っていた。

(もしかしたら、新しく入った人かも) そう考えながらタカハシさんに電話を回した。
タカハシさん:もしもし、タカハシです。ここにエリーさんはいませんよ。違う部署じゃな いですか?
そう言ってタカハシさんは電話を切った。
なぁんだ、間違い電話か。

数秒後、またすぐに電話が鳴った。 受話器を置いたばかりのタカハシさんが電話に出る。
タカハシさん:はい。会計タカハシです。 …え?エリーさんですか?ここにはそんな方いませんってば!さっきと同じ部署にかけてますよ!ここは会計です! 部署をご確認ください!!
ガチャッ
タカハシさんの口調が少し荒くなっていた。 間違い電話がこんなに度々かかってくるなんて珍しい。

お昼休憩時。
私:お昼、お先にいただきました。
私と交代でタカハシさんがお昼休憩に。 午後は外来も落ち着くし、まったりしながら患者さんが来るのを待つ。

そこへ。
プルルル…
私:はい!会計李です。
電話の相手:あ、エリーさん?良かった~!!やっとつながった!栄養科なんですけど~、この間 エリーさんが精算した入院費用のことで…

ん? エリーさん? ?
私は栄養科の用件を聞きながらも頭は別のことでいっぱいになった。
エリーさん… 
頭の中で巻き戻しをして考える。

電話が鳴った時
私:はい!会計李です
ハイ!カイケイ、リーデス
ハイ!カイケー、リーデス
ハイ!カイケ、エリーです…
エリーさんはワ・タ・シ?!

なんと栄養科が探していたエリーさんは、まさかの私だった。 すごく面白かったけど、なんだか恥ずかしくて、自分の姓が李だと言えず最後までエリーさんを演じきる。

休憩から戻ってきたタカハシさんに私はエリーさんの真相を話した。李だと訂正できなかったので、これからも「エリーさん」宛に電 話がかかってくるであろうことも…

タカハシさん爆笑。 笑いながら「少し席を外しますね」と言ってどこかに出かけていった。
タカハシさんは何も言わなかったけれど、栄養科にわざわざ 足を運んで、私が「エリーさん」ではなく「李さん」だと伝えてくれたのだとすぐに分かった。

それ以降、エリーさん宛に電話はかかって来ない。(笑)
私も間違えられるのは恥ずかしいので、電話に出る時は「会計の李です」とか「会計、李です」と助詞やスペースを入れて口を大きく開けて話すようになった。

タカハシさんがいて李さんがいて、エリーさんがいて…
栄養科はずっと思っていたことだろう。 なんてグローバルな部署なんだと。

そして今日も電話が鳴る。 プルルル…
私:はい!会計の李です。
そう電話に出ながら、今度は「のりいさん」が現れそうでワクワクしている。

2 COMMENTS

年寄り

いい話ですね。栄養科にエリーさんが李さんである旨を説明しに行ったタカハシさんに、他者に対するリスペクトが感じられました。ただ単に仕事上での訂正なら電話でも済むことですから。文面から判断すると、楽しいながらも根底で他者を互いに認めている良い職場の雰囲気を感じます。良い同僚をお持ちです(でした)ね。

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