おかしな娘のオモロイ話(9)ー長男

私の夫は義実家の長男。 どうやら義父も長男で、夫の祖父も長男らしい。 昔からなんだか長男は特別で、夫も祖父や父から特別扱いを受けていたそうだ。 夫は祖父からは長男だからと籠愛され、義父からは長男だからと厳しく育てられた。 そんな長男に特別扱いの義実家の孫として生まれてしまった我が息子。 この子ももちろん長男である。 ちゃん丸、四歳。 当然、義実家からの籠愛ぷりはハンパない。

夫の実家は大阪市生野区にある。 家族はみんなコテコテの大阪人だ。 帰省する時には必ず義母から事前に連絡がくる。 「ちゃん丸の洋服は全てありますから、手ぶらで来てくださいね。」

当初は、着替えを持っていかないなんて大胆なことはとても出来なかった。 食事で汚れ、公園で遊んでは汚れ、 多い時には1日に 4 回ほど着替える。 服を持っていかないなんて自殺行為に等しい。

最低限の荷物をまとめて、大阪に着くとビックリ。 息子の服が大量に揃っている。 肌着に半袖のTシャツ。上に羽織れそうな長袖、ズボン、靴下まで。 しかも全てタグ付きの新品。 息子のあらゆる趣向を考慮して、アンパンマンや戦隊ヒーロー、恐竜や動物柄。うわぁ、高いメーカー物まで…

あまりにも揃いすぎていて恐縮。申し訳なさそうに義母に謝る。
私:ミアナンミダ、こんなに気を使わせてしまって…
義母:ううん、全然!大阪はね、服安いねん!
義母はいろんな服に目を輝かせているちゃん丸を見て目を細めている。

翌朝。 私がちゃん丸と起きてリビングに行くと、義母と義父がすでに起きている。 義母のちゃん丸への眼差しが、もはや菩薩レベルで神々しい。
義母:ちゃん丸、よく寝れた?朝ごはん食べる?
ちゃん丸:ボク、パン食べたい。食パン。
ちゃん丸が言うやいなや、義母はサッと準備を始める。私は、めちゃくちゃ慌てる。
私:オモニ!ミアナムニダ、私がやります!
義母:いいのよ、いいのよ! 座っててね。コーヒーも入れるからね~
義母は私に何もやらせてくれない。仕方がないので、義母が淹れてくれたコーヒーとちゃん丸の朝ごはんを運ぶ。

ん? 義母がちゃん丸に出した食パンは今巷で大人気の生食パンではないか! 一斤 1200円ぐらいするやつ。 いやいや、ちょっと待て。ちゃん丸はもちろん、私だって食べたことない。
私:オ…オモニ!これ、どうしたんですか?!買うのに大行列のパン!!しかもめっちゃ高 いですよね?!これ!!
義母:そうそう!これ、美味しいって有名だから買うてみてん!大阪はパンも安いんよ ~~
いやいや、そんなわけないだろ。 チェーン店だもん。

生食パンを取り出して切る。 義母は一番端っこの耳の部分を残し、真ん中の一番おいしい部分をちゃん 丸にあげる。ちゃん丸は、初めて食べる生食パンをおいしそうに食べている。
義母:ちゃん丸、ウインナー食べる?
ちゃん丸:うん!あと牛乳も。
私より先に義母が動く。 ちゃん丸よ!ハンメでなくオンマに言ってくれ!!!
義母:うふふ~~大丈夫やからね~座っててね~♪

そして義母は熱々に焼いた<シャウエッセン>を持ってきた。 牛乳はもちろん<特濃>。 ことごとく割高な物で、うちでは買ったことのない代物ばかりだ。ムシャムシャ食べるちゃん丸のとなりで、義母が義父に言う。
義母:ハルベもこのパン味見してみ!すごい美味しい!!
そう言いながら、一番はしっこのパンの耳の部分を義父と分けあっている。

パンを食べ終わったちゃん丸に義母が聞く。
義母:ちゃん丸、ぶどうとイチゴがあるよ♪
実はちゃん丸、赤ちゃんの時からぶどうとイチゴが大好きである。「食べる!」と即答したちゃん丸に出されたのは、<シャインマスカット>と<あまおう>だった。 もはや一流ホテルの朝食サービス。

豪華な朝ごはんを食べ終えて、ちゃん丸はとってもうれしそう。 それを眺める義母もとてもうれしそう。
義母:お昼ごはんも夜ご飯もちゃん丸が食べたいものにするからね♪

大阪にいる間は、私の食育が全く通用しない。「残さないで頑張って食べなさい」も「この野菜食べてみよう」も何も通用しない。ちゃん丸は、義母に言えば全てが許されることを幼いながらに分かっている。

私も大阪にいる間だけは、そんなに目くじらを立てずにわがままを許すことにしている。1年で何日か、こんなわがままな期間があってもいいよね。 何より私の要らぬ横やりで、義母の愛を邪魔したくない。

「ボク、今日ハンメと一緒にお風呂入る」 ちゃん丸がそう言い出した日の、義母の泣きそうなぐらいにうれしそうな顔を私は忘れられない。 義母はいつもあとの人を気にして、短時間でお風呂を済ませるのに、その日はちゃん丸と 1 時間お風呂に入っていた。 楽しそうに歌を歌いながら。

それからというもの、どっちがちゃん丸と一緒にお風呂に入るかで義両親がケンカをするようになった。 夕方に義父がちゃん丸をお風呂に誘う。
義父:ちゃん丸、今日はハルベと風呂入ろうな
ちゃん丸:ボク…まだ入りたくないなぁ。
なんとか一緒に入ろうとちゃん丸を説得する義父に、義母が声を荒らげて詰め寄る。
義母:もう!ハルベ!!ちゃん丸は今入りたくないねんから、無理に入れるのやめ!あとで ハンメが入れるから!あとの人が遅れるからはよ1人で入りや!!

うってかわって、優しい菩薩の声でちゃん丸にほほえみかける。
義母:ちゃん丸、あとで入りたくなったらハンメに言うてね。
ちゃん丸:うん!!ボク、あとでハンメと入る!
シュンと1人寂しくお風呂に入る義父と、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべる義母。その対照的な表情は、まるでマンガみたい。

大阪での帰省を終えていよいよ東京へ帰る日。 義両親は、それはそれは寂しそう。
義母:身体に気をつけてね! ちゃん丸、また遊びにおいで!
ちゃん丸:うん!ばいば~いっ!

東京に戻って来て、ちゃん丸のわがまま生活は終わりを告げた。 「ボク、ブロッコリーいらない」と言ったって代わりに食べてくれる人もいないし「夜ごはんは焼肉がいいなぁ」と言っても焼き魚が出てくる。 牛乳はそんなに濃くない SEIYU の<みなさまのお墨付き>だし、食パンだって<本仕込>は全然甘くない。

東京に帰ってきて2日目の夜、家に荷物が届いた。大きい段ボール。差出人は…義母だ。開けてみると、義母が揃えてくれた大量の服が入っていた。「保育園で活用できますように」 そんな手紙も添えられて。 手紙には、別の封筒も入っていて中にはお金が入っていた。「帰省の疲れがとれた頃に、みんなで焼肉でも食べに行ってください。」 もう涙ものである。

夜21時を過ぎていたが慌てて義母に電話をかける。スマホは、もちろんちゃん丸に 持たせる。
義母:もしもし
ちゃん丸:ハンメー!ボクだよ、ちゃん丸だよー!ありがとう。
ちゃん丸の横で私が必死に話す言葉を指示しているのだが、そんなことはどうでもいい。 受話器越しの義母の声はとてもうれしそう。
義母:ちゃん丸、いっぱい食べてまた大阪においで♪

日常生活が戻ってきたある日、ちゃん丸がポツリと言った。 「ボク、今日焼肉食べたいなぁ。」夜ご飯は肉じゃがの予定だったけど、しょうがないか。
私:焼肉行くかー!
ちゃん丸:ヤッターー♪
義母のくれる大きな愛のおかげで、ちゃん丸は夢と希望あふれる毎日を過ごしている。

2 COMMENTS

マサオくん

しょっぱいぜ
まるで俺の人生みたいにな!(笑)

孫可愛い❤️

毎回、おかしな娘のオモロイ話、たのしみにしています。^_^
ちゃん丸君のパン食べるイラスト、お風呂のイラスト、めっちゃ受けて爆笑。

うちの長女も4月に出産予定。
長女から1か月間、婿、生まれたベビー3人、よろしく!のメールが来てビックリ。😊

でも孫のためなら、頑張っちゃうんだな〜〜‼️
ちゃん丸君の시아버지、시어머니の気持ちが理解出来ますね。😊

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