春のうららかさを感じよう

1本の樹にもー新米教師奮闘記⑥

新学年度の入学式。ヒョングは中級部2年を受け持つことになった。新任教員の紹介で東京出身と言った時の生徒たちの反応がすごかった。学父母たちも好奇の目でヒョングを注視していた。

教員室に戻ってきたヒョングは机の前で小さくため息をついた。隣の先生が「ヒョング先生の紹介は盛り上がったな~」と言うと向かいの席の女性教師が「そら若いし男前やからね〜オモニたちの視線独り占めやわ。ね、チョンファ先生?」「はい、そらもう…」とチョンファがニコリと笑った。

チョンファは目鼻立ちがハッキリした、聡明そうな美人である。その素振りは新任とは思えないほど落ち着いている。「しかし、生徒たちは本当に素朴なんですね」とヒョングが言うと向かいの女性教師が「田舎もんの世間知らずや言いたいんやろ?」とヒョングをおちょくるように笑う。「そんなことないっすよ。ホント、かわいいです」とヒョングは焦るように付け加えた。

冷たい階段を上った3階に中級部2年の教室がある。教室の前に立ったヒョングは教室の上に付けられた“中級部2年 担任リ・ヒョング”と書かれた表札に視線を向け、大きく深呼吸してから教室の扉を開いた。子供たちの視線がヒョングに一斉に向けられた。

緊張感で体が硬直し胸はドキドキだったが、ヒョングは気後れしまいとわざと余裕のある素振りで教壇に立った。一度学生たちを見回してからヒョングは「안녕하십니까 」と挨拶をした。「この春、朝大を卒業したリ・ヒョングです。今日から1年間、一緒に楽しくやって行きましょう。よろしく」の自己紹介が終わると生徒たちから拍手が起きた。その拍手がなぜかうれしかった。

続けてヒョングは出席簿にある生徒たちの名前を呼んだ。生徒一人ひとりの顔は写真で既に覚えている。ヒョングが教師として最初にもらった課題が、この“最初から生徒の顔を見て名前を呼ぶこと”だったのである。

キム・ソンス、キム・ホドン、キム・ミョンソン、リ・ヨンサ、パク・ファオン、シン・ガンシク、シン・キョンスク、チョ・ニョモ、ソン・エミョン、ソン・ミョンジャ。この10人がヒョングが受け持つ生徒たちである。

ホームルームの最後にヒョングは1年間のクラスの目標を語った。「何でも一生懸命やろう!楽しくて笑いの絶えないクラスにしよう!」(さぁ、始まるぞ!)クラス全員の顔を見ながらヒョングは、ガチガチだった最初の緊張感が心地よい緊張感に変わっているのに気付いた。