文世光の供述を韓国の捜査当局が発表すると、これを真っ向から否定したのが総連である。名指しされた金浩龍は記者会見を開き、韓国の発表を「根拠がない」と非難した。
文世光と知り合ったことは事実だとするも、そのきっかけについては、総連の機関紙を配布していた金浩龍に文世光が「読みたい」と声をかけてきたからだと説明した。祖国の統一問題について「ごく一般的に話し合うぐらいの関係」で、万景峰号に乗船するよう指示したことも否定した。
「日本の捜査当局が朴(正煕)一味の要請で事情聴取を求めて来ても一切拒否する」
金浩龍は断言したが、大阪府警の捜査が総連に及ぶことはなかった。日本が総連への捜査に消極姿勢を示すと朴正煕は激怒。こう漏らしたという。
「東京爆撃をできないものか」
青瓦台に駐韓日本大使を呼び出して総連の非合法化を訴え、非公式に破壊活動防止法の適用まで求めた。
日本政府は総連の取り締まりについて、「日本における反韓国的犯罪集団は誠意をもって取り締まる」ことを約束した田中角栄首相(当時)の親書を朴正煕に手渡すことで決着を図った。
1974年12月、韓国大法院で文世光の有罪が確定。その3日後に死刑が執行された。遺言では、「総連にだまされて、こんな過ちを犯した私がバカだった」と述べたという。
「文世光事件は難儀や。あれはわからんことが多すぎる」
当時、大阪府警の外事課にいた元捜査員は私の取材にそう繰り返した。
「一支部の部長に過ぎない金浩龍が南の大統領暗殺計画に関与するはずがない。小さい頃から互いによう知っとったから、韓国側のキツい取り調べに文世光が咄嗟に名前を出したに過ぎないんちゃうか。あいつが万景峰号に乗船して暗殺指令を受けたという供述も怪しい。あの頃、万景峰号が大阪港に停泊する時は府警が船のそばの監視拠点で出入りするヤツら全員のツラ割をしていた。わしもやっとったが、文世光は出入りしていない」
日本警察が真相の解明を放棄したことで不可解さが澱のように残った。
金大中事件と朴正煕夫人銃殺事件。日本の戦後史上に残る大事件に総連と民団が深く関わり、激しい相克が続いた。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
竹中明洋(たけなか・あきひろ)/ジャーナリスト。1973年山口県生まれ。北海道大学卒業、東京大学大学院修士課程中退、ロシア・サンクトペテルブルク大学留学。在ウズベキスタン日本大使館専門調査員、NHK記者、衆議院議員秘書、「週刊文春」記者などを経てフリーランスに。著書に『沖縄を売った男』(扶桑社)、『殺しの柳川 日韓戦後秘史』(小学館)がある。
※週刊ポスト2022年9月30日号
楽しい事しか頭に入らなかった学生時代。
朝鮮半島と日本で何が起こっているのかさえ知らなかった。時折見かけたニュースで悲しい韓国の現状は知っていたが、心に多くを留める事も無く‥‥
今朝は頭の中がごちゃごちゃ。
新聞を一気読みした気分。
知っておかなきゃならないニュースなんだろうけど、どうしても目をそらしちゃいたくなくなっちゃう💦
大変な時代だったんだろうね😢
真相は闇の中?🤦♂️