春のうららかさを感じよう

介護のジカン―姑編㉓

特養ホームに入居を果たした姑、ホームでは機嫌がとってもいいらしい。いつもニコニコしていて介護士の人たちにも気に入られているようだ。ホント、ソトヅラは大事。そんな姑が何か問題を起こしたらしく、施設から呼び出しがあった。

介護士:実は金さん、昨日、ほかの入居者と大げんかをされてしまって…
夫:原因は何ですか?
介護士:それがね、ほかの方が持ってらっしゃるお人形を金さんが取り上げてしまったんです
私:お人形?
介護士:そうなんですよ。とりあえず、1日だけ金さんに貸してくれることになったんですけど、金さん、今日も返してくれなくて…

その言葉に夫が反応し、姑から人形を取り上げようとするが、姑は手を離さない。
夫:オモニ、返さなきゃダメだろ
姑:離しなさい!子供は誰にも渡さないわよ
夫:これは他人の物だから返せよ
姑:何を言うの!
介護士:ご主人、金さんが不安定になるので無理やり取り上げるのはやめてください
夫:はい。でも返さないと…
介護士:そこでお願いなんですが、お人形を買ってきてもらえませんか?
私:はい。分かりました

人形といっても、リカちゃんの類ではない。赤ちゃんほど大きな介護用人形である。姑は1日中その人形を抱っこして自分の胸に口を当てさせて“おっぱい”まであげているそうだ。

7人の子供を育て上げた記憶がそうさせているのか、あるいは忙しくてろくにお乳もあげられなかった自責の念に駆られて、今世話をしているのかは分からないが、姑の顔は優しさに満ちた母親の表情になっていた。