1本の樹にもー新米教師奮闘記⑯

地区予選も終わり、夏の学校行事は一段落を迎えた。それぞれ家に帰る寮生たちを見送ってヒョングもやっと東京に戻った。両親に会うのももちろんだが、ミョンスンに会えると思うと心が弾んだ。

実家はやはり心地良い。久しぶりに帰った息子のためにオモニは腕によりをかけて料理を準備した。テーブル狭しと並ぶご馳走に弟たちも大喜び。「うわー、ヒョンニムが帰って来たら料理が凄いや!」と言いながらパクパクと口に運ぶ。数か月ぶりの家族団らんであった。

「ジリリーン」電話が鳴った。「もしもし」弟が受話器を取ると相手はヒョングの親友のチョリだった。今日ヒョングが帰ると聞いてさっそく電話をかけてきたのである。「おうチョリか、久しぶり。うん分かった。じゃあ明日な」ガチャン。チョリは初級1年からの友達である。性格も部活も全く違うがチョリとはなぜかウマが合う。

次の日ヒョングが指定の焼肉屋に行くと、既に同じ中学出身の友人たちが数人集まっていた。 チョリがヒョングのために“ミニ同窓会”を急きょ開いたのである。

チョリは笑いながら「ヒョング、おかえり!チュッペ!」「チュッペ!」みんながヒョングのグラスに自分のグラスを近づけ「おかえり」の言葉を繰り返す。ヒョングは少し照れながら「ありがとう」と答えてはグラスを空けた。

「お前、帰ったんなら連絡ぐらいしろよ!」グァンスの話が始まる。グァンスは酒が入ると人に説教する癖がある。それを知るチョリが言葉を遮った。「まぁまぁ、ヒョングのおかげでこうしてまた集まれたんだし」「そうね。最近はみんな忙しくて地元でもあまり会えないものね」「そうだよ。今日はヒョングの顔を見ながら飲むぞ!」「え?この顔を見ながら?もっと美男子ならお酒も進むんだけど…」「確かに!」1人の女子の言葉がみんなの笑いを誘った。

どれぐらい飲んだのだろうか。チョリが二言目には「チュッぺしよう!」と言うので。「チュッぺ〜!」と皆が調子を合わせる。そしてグラスを空ける。20代前半の若者たちの飲み会は乾杯のグラスを飲み干すのが常だった。

ハナタレ小僧時代からの幼馴染みと飲み交わす酒は格別だった。よく飲み、よく食べ、よく歌う…ヒョングは地元にいるという実感を噛みしめた。酔っ払ったチョリがヒョングの肩を組みながら「おい、ヒョング、お前早く帰って来い。寂しいだろうが! コラ〜和歌山!ヒョングを返せ〜」と叫んだ。

「チョリ、大声出したら店に迷惑だよ。静かにしような」といつも真っ先にくだを巻くグァンスが、今日は逆にチョリを諭している。「チョリはあんたと会えたのがよっぽどうれしかったんだね」女子がチョリを見ながらしみじみと言った。(早く帰って来なくちゃ)ヒョングは酔い潰れたチョリを抱えながら同級生のありがたみを改めて感じていた。