【投稿】居酒屋で鉢合わせ

こんな偶然はあるのか、二人が同じ居酒屋で鉢合わせをした。瓶ビールを手酌でコップに注いで一杯目。好物の焼き鳥ををつまみにして、一人くつろいでいた。

今日は一日中買い物をして少し疲れたので、駅の近所に良い居酒屋があるのを近所のお友達に聞いていたし、まだ夕方の6時過ぎだから混んでもいないだろうと思い、一人で暖簾をくぐったのである。

居酒屋なんて久しぶりだな～といそいそしながら。

テレビのニュースをのんびり眺めながら、2杯目のビールをチビチビやっていると、すぐ脇の引き戸がガラガラと開いた。え、ええー。まさか。
「 YOUは何しにこの居酒屋へ？」

腰を浮かせて固まっていると、私と目が合った相手もポカンとして口を半分開け、引き戸を閉める手が止まって銅像になっている。そう、それは私の娘だった。

居酒屋の一人飲みをしているのは知っていたが、まさかこんな偶然があるとは思ってもいなかった。しばらく連絡もとってなかったし、ここはそんなに有名でもない地味な店だ。そういえば誰にも教えていない素晴らしい居酒屋が、駅の近くにあるとは言っていたが、まさかここがそれなんだろうか。

「いや～これはこれは。奇遇じゃないですか！」
「こんなところで会うとはびっくりびっくり！」
おやじのような会話を交わし、隣同士のお客になって肩を並べる。

とりあえずはビールで乾杯。そして追加して何か頼もうとなった時に、ほかのお客さんが 湯豆腐を食べているのを見かけて頼んでみた。

小さな小鍋に豆腐が一丁、熱湯の中にドーンと鎮座している。熱いうちにさあさあ召し上がれ。レンゲですくって小鉢に移し、それぞれが好きな薬味をのせて味わう湯豆腐が美味しい。

一つ、二つ、大事に摘んでは口に運ぶ。少し肌寒い夕方に、娘と食べる湯豆腐と、お酒の美味しさ。

思いがけない良い夜だった。