지영이는 보았다(第3弾)その5

松山は上野のある喫茶店で中国の件での相手と話している。辛さんと呼んでるから同胞に違いない。スマホを胸ポケットかバッグにしまったままなのか、画面は暗いが会話は聞こえる。チヨンは何ひとつ会話内容を聞き漏らすまいと、初めて録音モードにして耳を澄ませる。込み入った話で内容が掴めないが、あとで録音を起こして精査すれば済むかな?

辛が取引してる寿商事なる社名の言及があったので、チヨンはパソコンを起ち上げ、検索してみた。都内某所にある個人貿易商で代表は佐藤昇とある。アジア圏との商取引が主で、その品々は多義にわたっている。電子機器や精密部品、調理器具も扱ってるようだ。それに中朝国境沿いの延吉に出張所がある。興味深い!

チヨンは同伴のお礼にかこつけて松山に電話した。松山は大層喜び「ハナさん。急ですけど、仕事関係者の接待を兼ねて今日お食事ご一緒願いますか?〈プム〉にも行きますが」と聞いてきた。「え〜っ、嬉しいです。では後ほど」と場所や時間の約束をした。

接待の相手が辛か佐藤ならベストかな!?どうあれ同伴は出来るのでラッキーだと思うことにしよう。事がトントン拍子に進むのに気を良くしながら、チヨンは録音した松山と辛の会話を再生してみる。

辛は焼肉屋のオーナーで店舗数は数軒あるみたいだ。その中の2軒に中国製の無煙ロースターを導入するにあたり寿商事で扱うそれを買い付けるつもりだ。価格交渉や支払い方法でつまづいてるみたいで松山に相談している。

松山は「ロースターの実績は確かですが、どうも他の品々の事が気になるんですよ。」と言っている。辛も「えっ、それはまずいなぁ。」と返した。「辛さん他の取引もあるんですか?」の質問にそれ以上の言及はなかった。チヨンは調べる価値ありと踏んだ。ゆくゆくはこの録音も添付して、担当上司に報告しようと頭のメモに書いた。あの偉そうなクソ野郎の反応を想像すると愉快になる。

夜、約束した場所の〈叙々苑〉に行くと松山は接待の相手と待っていた。「あっ、ハナさん。この方は寿商事の佐藤代表です」と紹介した。ハナは全身に電流が駆け巡るような感覚を覚える。佐藤は脂ぎったおっさんで、身なりは高級ブランドで着飾った成金風情だ。ハナはどんな情報を聞き出せるかと、頭の中で会話の段取りをする……

          続く